I believe ...




01.気がつけば、素直に甘えられる年齢を過ぎてしまっていた


02.振り返ってみても、そこには誰もいなくて


03.伸ばした手は空しく宙をさまようだけで、何もつかめない


04.その何気ない優しさに何度救われた事か


05.ただ傍で笑っていて欲しかった、だけどもう、元には戻れない


06.1分20秒なんて中途半端な時間は誰が決めた?


07.自分の意志なんて関係なく、それは貫かなければならないもの


08.片翼では飛ぶことなんてできないけれど


09.自分の中にいるもう1人の自分が


10.君がいるから、何度くじけそうになっても諦めずにいられる











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「な…?」

 突然すぎるの声に、一護は言葉を失った。

 動揺を隠せない一護とは対照的に、は落ち着いている。

「お前の問題だ。 納得の行くまで考えろ。」

 そう告げる声も静かで…

 何故だろう、少し悔しかった。

 黒曜石の瞳にまっすぐに見据えられて。

 不安からか、拳をぎゅっと強く握る。

「簡単に… 言うなよ…」

 この苦しみも恐怖も、自分にしかわからない。

「だったら何で邪魔したんだよ! 放っとけよ!!」

 自分が自分でなくなってしまうのが怖くて…

 乱暴に言葉をぶつけてしまった。

 一護は、ただ泣き叫ぶしか出来ないほど子供でもなくて。

 だけど、の言葉を理解して素直に受け入れられるほど、大人でもなかったから。



気がつけば、素直に甘えられる年齢を過ぎてしまっていた












『   』

バッ

「はっ、はっ、はっ…!」

 滝のように、汗が流れている。

 とても不安だった。

 常に、何かに見張られているような気がして。

 常に、内から己を嘲るような声が聞こえるような気がして。

 だけど、振り返ってみても、そこには誰もいなくて…

「クソ…っ…!」

 一護は唇を噛んだ。

「どうしろってんだよ… クソッ…!」

『 消えちまえよ 』

「… ――――― 」

バッ

 一護は振り返った。

 今、何か声が聞こえたような気が…

 だが、そこにはやはり誰もいなくて。

「………」

 ほっと、胸を撫で下ろす。

「… ――― 」

 瞬間、一護の呼吸が止まった。

『 なァ、相棒 』

 耳もとで声が響いて…

 その後の記憶はない。



振り返ってみても、そこには誰もいなくて












「…っ… ………」

 の腕の中で、一護は小さく身を捩った。

「…悪い… 俺…」

 一護の声を、首を振って遮る。

「何も言うな。 私こそ、手荒い方法しか思いつかずにすまなかった。」

 耳もとに囁かれる声。

 自分はいつだって、この少女に護られていた。

 ―――――

「――― !」

ドンっ

 殺気を感じた時には、一護は既に突き飛ばされていた。

 突然の眩い光に、視界を奪われる。

「…っ… っ…!」

 手を伸ばしたが、直後の爆風に煽られて…

 その手は何も掴む事はなかった。



伸ばした手は虚しく宙をさまようだけで、何もつかめない












「何で何も言わねえんだよ…!」

 一護は唇を噛んだ。

は…! 俺のせいで…」

 グッと握ったその拳は、悔しさからか震えている。

 口を利いたのは。

「…なるほど。 責められる方が気が楽だろう。」

 朽木白哉がだった。

「自惚れるな、小僧…」

 まっすぐに一護を見据えるその瞳は、静かに揺れている。

「貴様を庇ったのは、の意思だ。 今ここで貴様を責めれば、は私を叱咤するだろう。 アレはそう言う者だ。」

 誰よりもの身を案じているだろう、白哉に窘められて。

 一護はゆっくり息を吐いた。

「…悪い…」

 重くなった場の空気に、松本乱菊が首を振る。

「ほーら! そんな暗い顔してると、が戻った時に怒られるわよ?」



その何気ない優しさに何度救われた事か












「…俺… 一人じゃ何も出来ないんだな…」

 膝を抱えて、蹲る。

…」

 いつも自分を助けてくれた、少女の名を呟いてみる。

『それが"運命"だと言うのなら、抗うだけだ。』

 そう言って、は不敵に笑った。

『ふざけるな! 私は…!! 認めぬぞ!! 山本を呼べ!!』

 理不尽な決定に真っ先に意を唱えたのもで…

『! 待て、イチゴ…!!』

 それなのに、怖くなって逃げ出してしまった。

 自分は、ほど強くはない。

「…っ…」

 一人では、何も出来ない。

 遠く離れて、改めて実感させられた。

 己の無力さを。 ―――――



ただ傍で笑っていて欲しかった、だけどもう、元には戻れない












「1分20秒…」

「何が…」

「貴方が尸魂界の死神さんと言葉を交わした時間っスよ。」

 浦原の声に、一護の瞳が揺れた。

「何か… お悩みですか?」

「別に…」

「隠しても無駄じゃ。」

 一護の声を遮ったのは夜一だった。

「おぬし… その霊圧は何じゃ? 死神の力はどうした?」

 その瞳が揺れた。

「………」

 言葉を探すが何も浮かんでは来なくて…

 一護は唇を噛んだ。

 わかっている。

 このままじゃ、ダメなんだ…



1分20秒なんて 中途半端な時間は誰が決めた?












「俺は俺だ!」

 胸に手を当てて、じっと目の前の男を見据えた。

「お前が何を言おうが関係ねえ! 俺は死神だ!」

「そう思うてるんは、自分だけなんちゃう?」

 小指で耳をほじりながら、平子は小さく息を吐いた。

「なァ、一護… 考えてみぃや。」

 一護の心を乱すかのように、平子は言葉を紡いだ。

「姉やんは"防人"一族やから、封印されるだけで済んだんや。」

 まるで言霊のように、一護の耳に静かに響く声。

「…俺が護廷十三隊の総隊長なら… 迷わず…」

 目を細めて、射抜くように一護を見据える。

「お前を消す。 尸魂界を脅かす力を持つお前を、放っとく訳にはいかんやろ。」

「うるせえ!!」

 完全に言い終えるより先に、一護が声を投げた。

「俺は…!」

 不安を煽るかのように告げる平子の声に、流されまいと大きく頭を振った。

「俺は死神だ!! お前らの言う通りになんてならねえ!!」

 捨て台詞のように吐き捨てて、一護は駆け出した。

「難儀なやっちゃ…」

 風に、平子の髪が揺れた。



自分の意志なんて関係なく、それは貫かなければならないもの












「…結局… 追われる身かよ…」

 一護はゆっくりと溜息を吐いた。

 その場に座り込んで、空を仰ぎ見る。

…」

 呟いた。

「…アンタなら… どうする…?」

 答える声はなく。

「…アンタなら… 何を信じるんだ…?」

 一護の呟きは風に乗って消えた。



片翼では飛ぶことなんてできないけれど












『 もらって行くぜ、コレ 』

「やめろ!!」

 力いっぱい叫んでも。

 表と裏が入れ替わったこの状況では、どうする事も出来なくて。

「やめろ!! 誰も…! 誰も傷付けるな!!」

 悲痛な叫びは誰にも届かない。

 真の力を解放された天鎖斬月。

 その力が容赦なく、を、ルキアを襲う。

「くそっ! …!!」

 一護は唇を噛んだ。

「頼む! 俺を止めてくれ…!!!」

 決して声が届くことはないと知っていても、叫ばずにはいられない。

「俺を殺せ!!」



自分の中にいるもう一人の自分が












「次は… 絶対に、護ってみせる… だから…」

「何を言う…」

 一護の声を、首を振って遮る。

「お前は、ちゃんと護ってくれただろう。」

 振り返ることはなく、背を向けたまま、はそう告げた。

「………」

 一護は何のことだかわからずに、ただ首を傾げた。

「…生きてくれたではないか。」

「 ――――― 」

 その声に、呼吸が止まった。

「それだけで十分だ。 私は… それだけで救われた。」

「………」

 一護は言葉を探せずにいた。

「生きていてくれて、ありがとう。」

 風が吹いた。

 艶やかな黒髪が揺れる。

 その小さな後姿をじっと見据えて。

 一護は深く頭を下げた。

 何度謝っても足りぬほど。

 何度礼を述べても足りぬほど。

 には大きな借りがあるから。



君がいるから、何度くじけそうになっても諦められずにいられる












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BLEACH 原作沿い連載ドリーム 第二弾 『 I believe ... 』 のダイジェスト3です。

一護編です。

1、2と同じく 文10title を使わせて頂きました。

今回、このダイジェスト3は、完全公開と言う形を取らせて頂きました。

1、2の公開予定はないので、こちら3のみでご勘弁を。

構成段階での執筆になりますので、原作の動きに合わせて色々変更があると思いますが、とりあえずはコレで。

1、2よりもさらに、シリアス度が増してます。(汗)

死神と仮面の軍政との狭間で、破面の力に脅える一護…

今のWJ 目が放せません。

BLEACH 好きです。

がんばります。



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2006. 4. 16.   亜椎 深雪


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