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「まったくもって信じ難し!!」

 校長室に、教師である鍵根の声が響いた。

「自分たちが何をしたか、わかってるのかおまえら!?」

 ここに呼び出されたのは。

 昨日のドン・観音寺の番組の生放送会場に、足を運んだ者達。

「これを見ろ!!」

 鍵根がそう言ってリモコンを操作すると、スクリーンいっぱいに一護が映し出された。

 全国に流れた、映像である。

「どうだ? 黒崎。 これを見て、何か言うことはないか? んん?」

 一護は眉一つ動かさずに、シラを切った。

「…俺によく似てますね。」

 その声に、啓吾は危うく噴き出しそうになった。

「正真正銘おまえだ、ばかもの!!」

 鍵根はそう言うが。

「生き別れの双子の兄です。 まさかこんな形で再会することになるとは思いもよらない。」

 シラを切り通すつもりなのだろう、一護は棒読み口調で言った。

「おまえ… 本気で教師をなめとるようだな…」

 鍵根は一護の胸倉を掴んだ。

「この映像が流れたことで、おまえがどれほど我が校の恥をさらしたかわかって…」

 すぐ側で一護が怒鳴られているのに。

 何故だろう、少し遠くでその声が聞こえる気がする。

 はわずかに目を伏せた。

(なんか………)

 少し唇を噛む。

(…気持ち悪い………)

 景色がぐるぐると回っている。

 朦朧とする意識をどうにか保とうと、グッと拳を握った。

「?」

 そんなの様子に気付いたのだろう、たつきが眉を寄せる。

?」

 その声に、その場にいる全員が振り向いた。

「…っ、!」

 真っ先に動いたのは一護だった。

 鍵根の手を振り払って、の顔を覗き込むかのように少し屈む。

「どうした? どっか悪いのか?」

 は小さく首を振った。

「…ううん、大丈夫…」

 小さくはにかむが明らかに顔色は悪く、その言葉には何の説得力もない。

「黒崎ー、もういいからさ、をどこかで休ませてやりな。」

 声をかけたのは、担任の越智先生だった。

 一護は頷いた。

「すんません! 恩に着ます!」

 を抱えて、すばやく校長室を去る。

 残ったメンバーは、それぞれに顔を見合わせてうんと頷いた。

「あ、待て黒崎! まだ話は終わってな…」

 一護の背中に声を投げる鍵根の背後の窓から、そーっと…

「ん… コラまて、おまえらぁ!!!」

 その声に従う訳もなく、一目散に逃げ去った。

 鍵根は越智先生の肩をがしっと掴んだ。

「あなた見てたでしょう!? 黒崎は行かせるし、なんで制止しなかったんですか!?」

は体が弱いから、のことを良く知ってる黒崎に任せた方が安心でしょ。 それに、テレビに映って騒いだくらい、そんなに叱る事でもないかなーって。」

「校長先生!!」

 校長に同意を求めるかのように振るが。

「鍵根クーン、これダビングしていいかな? ウチの生徒がTVに出た!って、孫に自慢したいのよ。」

 なんて、言う始末。

「なにもかも信じ難し!!」

 鍵根は校長室のドアを壊して、そのまま走り去った。









「軽い貧血ね。 少し休んでいきなさい。」

 横になれる場所がいいだろうと、一護がを運んだのは保健室だった。

「いつもすみません…」

 が言った。

「いいのいいの、さんは。 小さくて可愛いから♡」

 と、付き添いの一護は保健室の常連である。

「さてと。 15分くらい外すけど… 変な事しちゃダメよ、黒崎。」

「しねーよっ! /// 」

 この手の事でからかわれるのは慣れてない。

 一護は耳を真っ赤にして叫んだ。

 先生が出て行き、保健室には一護としかいない。

 ベッドに横になったを見て、一護はわずかに目を細めた。

「最近… 少し元気ないよな…? 調子悪いのか?」

 心配そうに声をかける。

 はじっと一護を見据えた。

 何だろう。

 言いたい事はいっぱいあるはずなのに…

 一護を前にすると、頭が真っ白になって何も考えられない。

 は一度まばたきをした。

「………一護………」

「何だ?」

 自分にかけられた声が優しくて、安心したのだろう。

 は小さく笑った。

「………どこにも… 行かないでね…」

 突然のの言葉に目を丸くするが、一護は頷いた。

「ああ。 俺はどこにも行かねえ。」

 髪を撫でるその手が暖かくて。

 わずかに眠気を誘われた。


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