ガタッ 突然、織姫が席を立った。 一年三組の教室。 今は、お昼休みである。 「織姫? どうしたの?」 窓枠によじ登ろうとする織姫に、が首を傾げた。 「黒崎くんのにおいがした!」 窓から身を乗り出そうとした織姫を。 「した!って、何言ってんの犬じゃなるまいし! 第一ココ三階よ! こんなトコから一護が入ってくるワケ…」 たつきが宥める。 「………な………」 たつきは言葉を飲み込んだ。 いや、たつきだけではない。 織姫も、も目を丸くした。 「ここ… 1年3組であってるよな?」 確かに、窓である。 窓から… 「ぎや―――――!!!」 たつきは叫ぶなり、織姫を連れて教室の隅の方まで退いた。 「あ…ッ、あああああんた! 今、どうやって上がってきたのよッ!?」 と、窓から上がってきたそれを、思い切り指差す。 「どうやって…? 今見てたろ? 跳んで上がってきたんだよ。 ビックリしたか?」 その声に、が眉を寄せた。 オレンジ色の髪に、茶色の瞳。 背格好は、紛れもなく… 「い… 一、護…?」 黒崎一護である。 の声に、それは振り返った。 の顔を見るなり、言葉を飲み込む。 それは跳んだ。 「初めまして、美しいお嬢さん。 ボクにお名前を…」 の手を取り、手の甲に口付ける。 「教えて下さいな♡」 突然すぎるその行動に、誰一人目を疑わない者はいない。 ブチッ 何かが切れた音がした。 ガシャン 窓ガラスが音を立てて割れた。 ごぉっ ズガン 「死ねぇッ!!」 たつきが机を放り投げる。 「一護、あんたねぇ!! に何すんのよ!?」 そう言いながら、次々と机を投げていく。 完全に頭に血が上ってるのだろう。 「あんたも知ってるでしょ! は小さい頃から心臓が弱いって!! 妙なマネすんのもいい加減に…!」 「…違うよ、たつき。」 の声に、たつきが手を止める。 「違う… 一護じゃない…」 の瞳が揺れた。 めちゃくちゃな教室の中。 まっすぐに、一護の姿をしたそれを見据えた。 「…あなた、誰?」 ガラッ 「そこまでだ!!」 教室のドアが開いた。 「!!」 ダッ それは驚いたように、一目散に窓際へ逃げ出す。 「行ったぞ、一護!!」 「おう!」 ルキアの声に答えるように、窓から黒衣の一護が上がって来る。 それの前を阻んだ。 「さァ! 逃げ道はねえ…」 「一護!」 その声に、一瞬一護の呼吸が止まった。 弾けたように、視線を投げる。 まっすぐに自分を見つめるの瞳にぶつかった。 ドン 一護の隙を付いたのだろう、それはそのまま窓から飛び出した。 それを追う事も出来ずに、一護はただ目を丸くしている。 「…? お前… 俺が見えるのか?」 驚く一護の声に、は眉を寄せた。 黒い、袴姿。 その手には、身の丈もありそうな大きな刀を握っている。 「…な、に? その格好…?」 混乱しているのだろう、の声は震えていた。 「一護がここにいるって事は… 今、窓から出て行った一護は…?」 窓をじっと見たまま目を丸くするに、たつきが首を傾げた。 「どうしたのよ、? 何かいるの?」 その声に、混乱は煽られるばかりで。 以外の者に、一護の姿は見えていないようだ。 「なんで…?」 の瞳が揺れた。 一護は唇を噛んだ。 に、こんな表情(かお)をさせた事なんて、今まで一度もなかったのに。 「何を呆けている、一護!! 追うぞ!!」 そう叫ぶなり、ルキアは再び駆け出した。 「お、おう!」 我に返って、窓から飛び出そうと… 「一護…!」 の声に、足が止まった。 何か言おうと口を開くが、何から話していいかわからないのだろう、言葉が出ない。 「…っ… 後で、絶対に話すから! 少し待ってろ!」 「待って、一護…!」 窓際へ駆け寄ろうとして。 ズキィッ 胸に激しい痛みが走った。 「ちょ…! !!」 悲鳴のようなたつきの声に振り返る。 の小さな体が、ゆっくりと傾いて… 「……っ…!!!」 一護はを受け止めようと、窓から教室の中へ飛び込んだ。 ス… 「 ――― !」 触れる事が出来ず、の体は一護をすり抜けた。 死神は霊体だから、触れる事が出来なかったのだろう。 「!!」 たつきが駆け寄った。 「ミチル! 越智先生呼んで!! 千鶴は保健室!! 早く!!」 慌しく騒いでいる目の前の様子が、随分遠くに感じられた。 気を失ったは、たつきと織姫に抱えられるようにして教室から出て行く。 ギリ… 一護は唇を噛んだ。 「あんのヤロウ〜…」 元はと言えば、一護の体に入っているヤツが起こした騒ぎである。 「ぶっ殺す!!」 死覇装の裾を翻す。 窓枠を蹴った。 |