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バフン

 何か、柔らかいものが落ちて来たかのような、衝撃を感じた。

「ウルァ!! 起きろ、一護!! 朝だぞ!! モーニン! だ、モーニン!」

「………」

 思いっきりしかめっ面で目を開けると。

 そこには、一体のぬいぐるみ。

「さっさと起きねーとアンタのカバンの中にコッソリ入って、学校についてって… クラスの女子とかに 「キャー! 黒崎ってヌイグルミとか持ち歩いてんの? キモーイ!!」 って言われ…」

グ…

 うるさく一気に捲くし立てるぬいぐるみの頭を。

グググググ…

 思い切り握りつぶす。

「いィだだだだだだァっ!? はっ… 放せ、コノヤロウ!!」

 そんな事を言いながら短い手足をバタバタさせてもがくぬいぐるみを。

ブン

 っと、放り投げた。

「おフッ!」

 一護に放り投げられたままに壁にぶつかり、ぬいぐるみは小さく悲鳴を上げた。

「テメーはおとなしく、ヌイグルミっぽくしてろッつっただろ、コン!!」

 一護が眉を寄せた。

 ぬいぐるみの中には、この間の騒動を引き起こした尸魂界の道具・改造魂魄が入っている。

 コイツのせいでが倒れたと思うと、こうして側においとくのも癪に障るが。

『そうなんだ… 可哀相じゃん、面倒見てあげようよ、一護。』

 にそうしてお願いされてしまうと、断る事は出来ない。

「いてーな! 丁寧に扱えって言ってんだろが!!」

 改造魂魄から、コンと命名されたそのヌイグルミは、一護を見て声を上げた。

 それに聞く耳持たず、一護は着替え始め…

ガラッ

 部屋の押入れのドアが開いた。

「朝っぱらから五月蝿いぞ! 落ち着いて更衣もできんではないか!」

 そこからルキアが下りて来た。

ボフッ

「ぷおッ!!」

 踏み付けられたのだろう、コンが小さな悲鳴を上げた。

 視線を落とすルキアに。

「ナ……… ナイスアングル!!!」

 そんな事を言いながら親指を立てるコン。

ギリギリギリ…

 軽く頭に来たのだろう、ルキアはコンを思い切り踏み付けた。

「いででででででェっ!! やめてやめて! 綿が出る、綿が!!」

 悲鳴を上げるコンを見て。

「アホ…」

 一護は小さく息を吐いた。

「おにーちゃーん!!」

 部屋の外で響く、遊子の声。

 ルキアとコンの存在がばれるのは… マズイ。

「あけていいー?」

「お… おう!」

 二人を押入れに押し込んで、そう答える。

「あのねー… …って、何してんの?」

 押入れのドアを押さえている兄を見て、遊子が首を傾げた。

「な… 何でもない! 何でもないぞ!! オマエこそ何だよ!? こんな朝っぱらから!!」

「朝っぱらからじゃないでしょ! もう! ちゃんが迎えに来てるんだよ?」

 遊子が眉を寄せる。

が? …って、今何時…」

 いつもは一護が迎えに行くのに…

「うわ!!」

 時計を見て、一護は悲鳴を上げた。

 大寝坊である。

「そーそー。 わかったら早く支度してね。 女の子を待たせちゃダメだよ。」

 一護は着替えながら、一心の部屋の窓から顔を出した。

 家の前で、が待っている。

! 悪いっ! 今起きたとこなんだ! 上がって来いよ!」

 一護の声に、は小さく首を竦めた。

「はーい。」

 自分を見上げて、にこりと笑うに頬が緩…

「って、緩んでる場合じゃねえ!」

 一護は小さく頭を振った。

 急がないと、遅刻しそうである。

「一護! わたしは先に行くぞ!」

「おう!」

 部屋の窓から身を乗り出したルキアに、短く答える。

「あーもー! 何だって今日に限って親父の奴は起こしに来ねーんだ!? いつもなら、呼んでもねーのにガーッと…」

 手首に嵌めた腕時計を見て、一瞬、一護は目を丸くした。

 16 - JUNE

 6月16日である。

コンコン

 ノックの音。

「一護ー、入るよ?」

 の声だ。

「お、おう…」

ガチャ

「えへへv おはよぅ。」

 一護を見て、はにこりと笑った。

 その笑顔に、少し… ほっとした。

「めずらしいね、一護が寝坊するなんて。 死神のお仕事が忙しいの?」

 首を傾げたに。

「そうじゃねえよ。 ちょっと… 夢を見たんだ…」

 一護はわずかに眉を寄せた。

 その少し沈んだ声に、夢の内容を悟った。

「…明日、私も一緒に行こうかな…」

 突然の声に、一護は目をぱちくりさせた。

「何だよ、? いきなり…」

「だって… なんか、心配なんだもん…」

 不安そうに揺れる瞳。

 一護は優しく微笑んだ。

「大丈夫だって、心配すんなよ。 お前はちゃんと、学校に行け。」

 そう言いながら、くしゃっとの髪を撫でた。

 自分の髪を撫でる手は、いつもと同じで優しくて。

「…ん、わかった。」

 は小さく頷いた。

「明日、気を付けて行って来てね。」

 明日は 6/17 。

 一護の母親である、黒崎真咲の… 命日だ。


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