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「…ふぅ。」

 は小さく息を吐いた。

 今日は6月18日。

 一護は、今日、学校を休んだ。

タタン タタン

 遠くで、電車の走る音が聞こえる。

 例の川原で、探していたものを見つけた。

「こらー、一護! 何してんの?」

 声を投げる。

 一護は振り返って、目を丸くした。

? お前… 学校は…?」

 まだ、午前中である。

 本来なら、はもちろん、自分だってこんな場所にいる時間ではない。

「えへへv 頭が痛いって言って、早退しちゃった。」

「おい、コラ…」

 全く悪びれた様子のないに、一護は小さく息を吐いた。

「隣、座ってもいい?」

「…ああ…」

 一護の隣にちょこんと腰を下ろして、じっと、その横顔を見つめる。

「…何だよ?」

 一護の声に、は小さく首を振った。

「別に。」

 さらさらと流れる、川面を見つめる。

 何故だろう。

 少し… 淋しい。

 小5の夏を思い出した。

 一護のを呼ぶ時の名前が、「ちゃん」から「」に変わった時の事を。





『どーしたの、いっくん? いきなり…』

 首を傾げるに。

『別に。 …だめか、?』

 一護は少し困ったように眉を寄せた。

『ううん。 じゃ、あたしも、いっくんのこと、一護って呼ぶね。 いい?』





 ただ呼び名が変わっただけ。

 それだけの事に、少し驚いていた。

 本当にいきなりだったから、何と言うか… 少し… 淋しかった。

 男の子はこうして一歩ずつ、大人への階段を上って行くんだなと実感した。





 中一の時初めて、の荷物を持ってくれた時。



 中2で、一護の喧嘩に巻き込まれた時。

 は怪我をしなかったが、怪我した一護を見て泣いてしまった。

 それから一度も、一護はの前では絶対に喧嘩はしない。



 もとからの方が小さかったけど。

 中学に入ってから、どんどん背が伸びて顔が遠くなって…



 そして、今。

 6月18日の顔が、去年までとは違うってこと。





 きっと、昨日の内 ― 母親の命日に 何かあったのだろう。

 だけど、無理に聞こうとは思わない。

 ただ…

「ねー、一護。」

「…ん?」

 一護は視線を落とした。

「アイスクリーム食べたい。 食べに行こう。」

 唐突にそんなことを言って、が首を傾げている。

 一護は目をぱちくりさせた。

「…しょーがねーな… 行くぞ。」

 先に立ち上がって、に手を差し伸べた。

 その手を握って、は腰を上げた。

 ただ…

 一護が変に気を使わないように。

 何にも気付いていないふりをして、いつも通りに過ごす。

「ミニストップの、ソフトクリームね。 私ミックス。」

「はいはい…」

 幼なじみとして、彼女として。

 一護の心休まる場所でありたいと。

 そう思うから。


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