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「ボハハハハーッ!!」

 教室に入るなり、大声を上げた織姫に、一護は一歩退いた。

「あれ?」

 そんな様子の一護を見て、織姫は首を傾げる。

「リアクション薄いなあ、黒崎くん。 もしかして何だかわかんない? コレ。」

 眉を寄せた織姫に、恐る恐る声をかける。

「ぶ… 「ぶら霊」!」

「あったり!!」

 織姫は嬉しそうに笑って。

「それじゃ、黒崎くんもご一緒に!」

 もう一度、その妙なポーズをしようとする。

「ボハハ…」

 が。

「バンザーイ!」

 高く上げた両手は、そのまま たつき にしっかりと掴まれてしまった。

「…た… たつきちゃん? なに!? なに!?」

 訳がわからず混乱している織姫を、たつきはそのまま教室の中ほどへ連れてゆく。

「はいはいはい。 ボハハーは、あたしがつきあってあげるから!」

「なんで!?」

 解放されて、一護は小さく息を吐いた。

 大人気だとか、視聴率が高いとか、心霊番組だとか…

 はっきり言って、どうでもいい。

「一護は嫌いだもんね、ああ言うの。」

 背後から聞こえた声に、振り返った。

… おっす。」

「おはよう。」

 はにこりと笑った。

「"ああ言うの"ってコトは… お前もしっかり見た訳か。」

「あたし好きだもん、ああ言うの。 いいじゃん、流行は押さえとくべきだよ。」

 机の上に、カバンを置く。

「あ、そうそう。 来週のぶら霊だけど…」

 何か言いかけたの言葉を。

「行かねえよ!」

 遮った。

 眉を寄せて声を投げた一護に、食いついて来たのは。

「何でよ!? オマエわかってんのか!? 日本を代表する人気番組が、俺らの町に来るんだぞ!?」

 クラスメイトの浅野啓吾だった。

「これを見に行かないなど、空座町民として死んだも同然!!」

 元来、お調子者で祭り騒ぎは大好きな啓吾である。

「明日からオマエのアダ名は、『見に行かなかった人』になるんだぞ!!」

 しかも、一護はいやがるとわかっているなら…

 是が非でも誘うしかない。

「まんまだな。」

 一護は溜息を吐いた。

「ていうか、オマエ鳴木市民だろ。 なーにが、「俺らの町」だ。 こんな時だけ町民ヅラしやがって。」

 そう言いながら、失せろ失せろと、手をヒラヒラさせている。

「ううっ。」

 啓吾は眉を寄せた。

「な… なんだよう、一護のいけず!! せっかく… せっかく苦労して… 朽木さんも誘ったのに!!」

 啓吾の指差す先では。

「ごきげんよう、黒崎くん♪」

 スカートの裾を持ち上げたルキアが、にこやかに挨拶をしていた。

(ごきげんよう、ミス猫かぶり。)

 どっと疲れた気がするのは、きっと気のせいじゃない。

「ね、行こうよ、一護!」

 くんっと、は一護の裾を引いた。

「って、お前行くのかよ?」

 一護は目を丸くした。

「ん、そのつもり。」

 の答えに、首を振る。

「ダメだ!! 自分の体わかってんのか!? 夜中に外に出て、何かあったらどうすんだ!?」

 と、いつになく厳しい声でを嗜めるその姿は。

「まるでお父さんだね、一護。」

 小島水色がそう呟くほど、過保護な父親にしか見えない。

「おーい、席に着けー。」

 先生の声に、我に帰る。

 話が弾んで気付かなかったようだが、休み時間はすっかり終わっていた。


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