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「十番隊(うち)に、移動… ですか…?」

 十番隊執務室。

 突然の来訪者は、十一番隊隊長・更木剣八だった。

 めずらしい者が訪ねて来たと、首を傾げていた日番谷だが。

 突然過ぎる話に、更に眉を寄せて。

「………戦闘専門の十一番隊からの移動って… どんな奴なんです?」

 と、訊ねてしまった。

 日番谷の声に答えたのは。

「名前は、。 あたしはって呼んでるよ。」

 更木の肩に乗っかっていた、副隊長の草鹿やちる。

「やちる、少し黙ってろ。」

 更木が小さく息を吐いた。

「…十一番隊(うち)にいられなくなった奴だ。 大体で察しがつくだろ。」

 その声に、日番谷が眉を寄せる。

 戦闘専門の十一番隊にいられなくなった者。

 つまり…

「…怪我かなんかしたんですか、そいつ?」

 激しい戦闘に、参加できなくなったと言う事。

「そんなんでを更木隊から外さねえよ。」

 更木は小さく舌打ちをした。

 やちるが眉を寄せる。

「あのね、ひっつー… なんだけど………」

「何です…?」

 自分に付けられたあだ名に、軽く疲れを覚える。

「…耳が… 聞こえなくなちゃったんだ………」

「… ――― 」

 日番谷は眉を寄せた。

「…耳が聞こえない?」

 やちるが頷く。

「あのね、二ヶ月前の任務で… 大怪我しちゃって……… その後遺症で…」

 やちるの瞳が揺れる。

 今にも泣きそうなやちるの表情に、日番谷は小さく息を吐いた。

「…で、何で十番隊(うち)なんです?」

「やちるの勘だ。 光栄に思えよ。」

 即答した更木に、溜息で答えた。

「さっきやちるも言ったが、名前は。 新入りだが筋がよく、剣の腕は一品。 十番隊(てめえの所)なら、即戦力になるだろう。」

「…十番隊(うち)で即戦力なら、隊移動する必要ないんじゃないですか?」

 日番谷の声。

 やちるが困ったように眉を寄せた。

「…が隊舎にいると… みんな、気にして戦えないから………」

 その声に、日番谷は一度、ゆっくりとまばたきをする。

「耳が聞こえなくなってから… あんまりしゃべらなくなっちゃって… あたしの言いたいこともちゃんと伝わらないし………」

 幼い瞳が揺れた。

「耳が聞こえないんだ。 自分の声がわからないから、話す事に怯えてるんでしょう。 卯ノ花隊長は何て言ってるんです?」

 更木が小さく首を振った。

「…詳しい話は明日、一角に聞け。 午後二時に、とここに来るように言ってるからよ。」

 そう言いながら、一枚の紙を差し出した。

「山本のじいさんの判付きの隊移動許可書だ。 確かに渡したぜ。」

 その紙を受け取って、日番谷は何度目かわからない溜息を吐いた。

 音をなくした少女、

 一体、どんな少女なのだろう。

 気持ち少し、緊張している。


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