『悪かった… 護ってやれなくて………』 もう耳は聞こえない筈なのに… はっきりと、そんな声が聞こえた気がした。 「……… ――――― 」 ピカピカと、机の上で紅いランプが光っている。 「 !? 」 ガタッ は慌てて立ち上がった。 ガタンッ 勢い良く立ち上がり過ぎたために、椅子がひっくり返る。 いそいそとそれを直して、パタパタと隊長である日番谷の元へ駆けた。 「おそい。 お前、寝てやがったな?」 眉を寄せて、日番谷がそう言う。 すみません! そう言わんばかりに、深く頭を下げた。 「コレ、隣の十一番隊に届けてくれ。 今日までの書類だから、綾瀬川に渡せば確実だろ。」 日番谷から書類を受け取って、は斬魄刀の柄の先に付いた鈴を鳴らした。 その優しい音色に、思わず日番谷の口元に笑みが浮かぶ。 「ああ。 行って来い。」 その背中を見送って、片付けた書類の束をチラッと見て、日番谷は小さく息を吐いた。 コト 「はい、どうぞ。」 机の上に置かれた湯飲みに、日番谷が手を伸ばす。 「あんまり怒っちゃダメですよ、隊長。 一日中書類の整理なんて、睡魔と闘っているような物なんですから。」 「それはお前だけだ、松本。」 副官の台詞に、呆れたように溜息を吐いた。 松本はじっと日番谷を見つめた。 「、どうして十一番隊にしかおつかいに出さないんです?」 その声に、日番谷はわずかに目を細めた。 音を失くし、口を利く勇気をなくしてしまった少女。 十一番隊は、の事情を知っている。 だから、と言う訳でもないが… 黙り込んでしまった日番谷を見て、今度は松本が小さく息を吐いた。 「じゃ質問変えますけど、どうして十一番隊だけには、おつかいに出すんですか?」 一瞬、質問の意味がわからず目をぱちくりさせる。 「…恋次には会わせないようにしてくれって、そう言う風に一角に頼まれましたよね?」 松本は続ける。 「恋次は前は十一番隊にいたから、プライベートでも十一番隊とは仲がいいんですよ。 だから…」 「松本…」 松本の声を遮った。 「だから、『もしが阿散井に会ったらどうするのか。』、そう言いたいんだろ?」 頬杖を付きながらお茶を口に含んで、日番谷は小さく溜息を吐いた。 「同じ瀞霊廷に住んでるんだ。 一生会わないようにする方が難しいだろ。」 「そうですけど…」 何か言おうとした松本を、首を振って遮る。 「本人達の問題だ。 鉢合わせたら、その時はその時。 いつまでも逃げてないで、気の済むまで話し合うべきだと俺は思うけどな。」 「わかった、今日中にやっておくよ。 届けてくれてありがとう。」 書類を受け取って、綾瀬川は大袈裟に溜息を吐いた。 「うち、誰も事務をやってくれなくて本当困るんだよね…」 隊長の更木や、副隊長のやちる、三席の一角も机に大人しく座っているなんて出来ない性分である。 十一番隊にいたから、弓親の苦労は良く知っている。 十番隊に戻ろうと、は頭を下げた。 「ああ、お疲れさま。」 ドアの向こうに消えてゆくその背中を見据えて、弓親は目を細めた。 「…だから、僕は……… 君には十一番隊に残って欲しかったと思ってたんだよ…」 寂しそうなその声は、誰にも届くことはなかった。 ドアを閉じて歩き出そうとして、の呼吸が止まった。 「…………?」 その場にいたのは、六番隊副隊長・阿散井 恋次であった。 |