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 恋次は自分の目を疑った。

 だが、見間違う筈など無い。

「…久し… ぶりだな…」

 話したいことはたくさんある筈なのに、頭が真っ白になって何も言葉が出ない。

 ずっと会いたいと思っていたと、こんな所ですれ違うなんて思わなかった。

「…いつ、退院したんだ?」

 恋次の声はわずかに震えているが、耳が聞こえないにその動揺は伝わらないだろう。

 は一歩恋次に近付いた。

 そして、死覇装の袖を捲るなど、恋次の全身を見回すかのようにその周りをぐるっと回った。

「あー… その… 俺は平気だ。 どこも… 怪我なんかしちゃいねーよ…」

 はいつもこうだった。

 無鉄砲に敵に突っ込んで行く自分や一角を、一歩下がって心配していてくれたのだ。

「………」

 恋次を見上げて、にこっと笑う。

『良かった。』

 聞こえない声が棘になり、恋次の心にチクンと刺さった。













トントントン

 指で机を叩く、規則正しい音。

 日番谷はいつもより更に眉間に皺を寄せていた。

「お・そ・い…」

 人のいい日番谷が気にかけているのは、他でもない耳の聞こえない新入り隊員。

 十一番隊に使いに出してまだ戻らない、である。

「…ったく、どこほっつき歩いてんだよ。」

「心配なら、怖い顔してないで、さっさと迎えに行けばいいじゃないですか。」

 松本がからかうように、声をかける。

「何で俺が、にそこまでして…」

「誰も、なんて言ってませんけど?」

 クスクスと笑う副官に、日番谷はこれ以上何も言うまいと言葉を飲み込んだ。

なら、さっき見かけましたよ。」

 二人の会話を聞いていたのだろう隊士の声に、日番谷は振り向いた。

「どこで見た?」

「それが、その………」

 少し不機嫌な日番谷の声に、隊士は答え難そうに言葉を濁す。

「…六番隊の、阿散井副隊長とご一緒で………」

 日番谷の瞳が揺れた。

「あ?」

 背中越しに、松本の。

「ほ〜ら、言ったじゃないですか。」

 そんな声が聞こえた。


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