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『ねぇ、"運命"って、信じる?』

 そう言って、少女は笑った。

『あたしは信じてるよ。』

 不審そうに目を細める自分を見て、にこりと。

『貴方に会えたのは、きっと運命だったと思うの。』

 透き通るような、微笑だった。

『だから、きっと…』

 その瞳が揺れる。

『あたしか、貴方か… どちらかが先に死んじゃったとしても、また、巡り会えるよ。』

 何故少女がこんな事を言い出したのか。

『ごめん… いきなり変な事言って… 怒ってる?』

 あの時は理解出来なかった。

『あたしと貴方との出会い… 運命って一言で片付けるのは、ちょっと淋しいね。』

 少し淋しそうに笑って。

『もし、離れ離れになっても… また巡り会えますように。』

 少女は小指を立てた。

『ねぇ、約束しよう?』

 指切りを交わす。

 少女は笑った。

『約束!』









ひょこっ

 開いたドアの隙間から、顔を出す。

「ただいま、店長さん。」

「おかえりなさい、さん。」

 元気に浦原商店を覗き込んで来た女の子に、浦原は小さく首を竦めた。

「学校では丁度テスト期間っすか? 調子はどうです?」

「ぼちぼち頑張ってますよ〜。 単位落とせないですから。」

 少女の名は

 空座第一高校に通う、女子高生だ。

 何て事のない、ただのお客さん。

 始めはそう思っていた浦原だが。

 妙に人懐こいというか、懐かれたと言うか…

 通り道だと言う事も手伝って、は必ずと言ってもいいほど、店に顔を出すようになった。

 そうすると、自然と会話も他のお客さんに比べて多くなる訳で。

「お! じゃねえか!」

「どうも、こんにちは。」

 ジン太や雨などは、だいぶに懐いていた。

「こんにちは、ジン太くんに雨ちゃん。」

 にこりと笑ったに、ジン太が意地悪そうに眉を寄せた。

「おい、… まだ昼だぜ? ははーん… さては、お前… 店長に会いたいからって、学校さぼったな?」

 びしっと自分を指差すジン太に、は小さく息を吐いた。

「テスト中だから帰りが早いだけよ。 あたし真面目だからさぼらないもん。」

 そんな様子のを見て、浦原は細く笑った。

「はいはい。 真面目な学生さんなら、テスト期間は早く帰って勉強しないと。 ですよねェ。」

「言われなくてもわかってますよ。 じゃ、また。」

 ひらひらと手を振って、は歩き出した。

 足取りが軽いのを見ると、テストは順調らしい。

 ジン太がムスッと眉を寄せた。

「店長…」

「何すか?」

「店長って、が苦手なのか?」

 突然すぎる声に、浦原は少し目を丸くした。

「そんなことありませんよ。 どうしてそう思ったんです?」

 ジン太は言葉を探した。

「なんつーか… あんまりの顔見ねーし、今日なんて早く帰したがってたみたいだし…」

 浦原は小さく息を吐いた。

 子供と言うものは、大人以上に物事に敏感である。

「苦手じゃないですよ。 ただ…」

 浦原は一度、ゆっくりとまばたきをした。

「…昔、酷く傷付けてしまった女性(ひと)に似ているんですよ…」

『ねぇ、"運命"って、信じる?』

 浦原は煙管に火を付けた。

「………"約束"、ねェ…」

 煙と共に吐き出された小さな呟きは、誰の耳に届く事もなかった。


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