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ザン ―――――

 目の前に、深紅の華が散った。

 今まで見ることのなかった、鮮やかな色。

『…っ…!』

 足が竦んで立ち上がることも出来ず、だけど、怖くて声を出す事も出来ず…

 少女はただ大粒の涙を零すだけで、その場から動けない。

『………』

 浦原は細く笑った。

『アナタ、霊力をお持ちみたいですね。』

 何故だろう。

 その笑顔にとても安心して…

『アタシと一緒に来ませんか?』

 差し出された手を、取ってしまったのだ。









「最近、よく変な夢を見るの。」

 突然のの声。

「はぁ、夢ですか?」

 浦原は目を丸くして聞き返してしまった。

「ん、夢。」

 がコクンと頷く。

「どんな夢なんです?」

 浦原の問いに、少し眉を寄せて必死に思い出そうと考えるが。

「………それが、よく覚えてないの。」

 と、小さく唇を尖らせた。

「なんか、変なオバケみたいなヤツに追いかけられてて… でもピンチになったら助けてくれる人がいて…」

 一度言葉を切って、じっと浦原を見据える。

「あ、その人店長さんに似てたかも。」

 一瞬、浦原は言葉に詰まった。

 だが、すぐに。

「アタシに似てたなんて、随分男前な方ですねー♡」

 と、軽口を言う。

「もう、自分で言う人がどこにいるのよ。」

 半ば呆れつつも、は小さく笑った。

「誰なんだろう… すごく気になる…」

「…ただの夢でしょう。 気にする事ありませんよ。」

 煙草の煙を吐きながら、浦原が答えた。

「でもね、何か知らない人って感じがしないんだよねぇ…」

 は眉を寄せた。

「その人に出会えたら、あたし、"運命"ってヤツ信じるかも。」

ガラッ

 戸が開いて、ジン太が顔を出した。

「オイ、そろそろ夕飯だけど… 食ってくか?」

「え? もうそんな時間?」

 は慌てたように立ち上がった。

「あ〜、ごめんなさい、長い時間お邪魔しちゃって! 帰ります!」

 ぱたぱたと駆けて行った少女の背を見送る。

「…"運命"なんて、ないっスよ…」

 一人、呟くように吐き捨てる。

「あの時交わした約束だって… アナタは覚えていないじゃないですか…」

『大… 好き、よ………』

 目深に被った帽子のつばの下で、浦原の瞳が揺らいだ。

 少し、胸騒ぎがする。


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