3


「はぁ〜…」

 大袈裟までに溜息を吐いて、は机に突っ伏した。

 学生の本業である勉学に励もうとしていたのだが、それ所ではない。

「………」

 夢の中でだけ、会える男。

 その男といる時の自分は、とても幸せそうで…

「………誰なんだろ?」

 思い出せないのが悔しかった。

 優しい声。

 温かい手。

 愛しい眼差し。

 夢の中でははっきりと、その男を覚えているのに。

 目が覚めた途端、見失ってしまう。

 その男の記憶だけ、泡になって消えてしまうようで…

「…まるで人魚姫だね〜…」

 揶揄るように、呟いた。













ピク

 楽しいはずの食卓に、一瞬にして緊張が走った。

 だが、慣れたものでそれも一瞬だけ。

「おかわり。」

 ジン太は何食わぬ顔で茶碗を渡し。

「どうぞ、ジン太殿。」

 テッサイは茶碗にご飯を盛って、それをジン太に返した。

「…最近、多いですね、喜助さん…」

 雨が不安そうに眉を寄せる。

「そーっスねぇ… 黒崎さんが霊力垂れ流し状態ですから。 それに惹かれて、虚が集まるんでしょうね…」

 なんて事はない。

 虚の気配を感じただけ。

 この程度の虚ならば、すぐに一護が片付けるだろう。

 そう思ったが…

「……… ――――― 」

 帽子の下で、浦原の瞳が揺れた。

「…すみません、ちょっと行って来ます。」

 そう言って席を立つ。

「めずらしいな、店長。 どうかしたのか?」

 ジン太が首を傾げた。

「いえ、ちょっと… 胸騒ぎが………」

 いつになく真剣なその声に、雨が眉を寄せる。

 と、突然。

「なーんてね。」

 おちゃらけて、雨の頭を撫でる。

「すぐ戻りますんで、心配しないで下さい。」

 先程までの緊迫感は一切なく、雨も安心したのだろう。

 こくんと頷いた。

 愛用の杖を手に、店を出る。

 月明かりの眩しい夜だった。


back