「はぁ〜…」 大袈裟までに溜息を吐いて、は机に突っ伏した。 学生の本業である勉学に励もうとしていたのだが、それ所ではない。 「………」 夢の中でだけ、会える男。 その男といる時の自分は、とても幸せそうで… 「………誰なんだろ?」 思い出せないのが悔しかった。 優しい声。 温かい手。 愛しい眼差し。 夢の中でははっきりと、その男を覚えているのに。 目が覚めた途端、見失ってしまう。 その男の記憶だけ、泡になって消えてしまうようで… 「…まるで人魚姫だね〜…」 揶揄るように、呟いた。 ピク 楽しいはずの食卓に、一瞬にして緊張が走った。 だが、慣れたものでそれも一瞬だけ。 「おかわり。」 ジン太は何食わぬ顔で茶碗を渡し。 「どうぞ、ジン太殿。」 テッサイは茶碗にご飯を盛って、それをジン太に返した。 「…最近、多いですね、喜助さん…」 雨が不安そうに眉を寄せる。 「そーっスねぇ… 黒崎さんが霊力垂れ流し状態ですから。 それに惹かれて、虚が集まるんでしょうね…」 なんて事はない。 虚の気配を感じただけ。 この程度の虚ならば、すぐに一護が片付けるだろう。 そう思ったが… 「……… ――――― 」 帽子の下で、浦原の瞳が揺れた。 「…すみません、ちょっと行って来ます。」 そう言って席を立つ。 「めずらしいな、店長。 どうかしたのか?」 ジン太が首を傾げた。 「いえ、ちょっと… 胸騒ぎが………」 いつになく真剣なその声に、雨が眉を寄せる。 と、突然。 「なーんてね。」 おちゃらけて、雨の頭を撫でる。 「すぐ戻りますんで、心配しないで下さい。」 先程までの緊迫感は一切なく、雨も安心したのだろう。 こくんと頷いた。 愛用の杖を手に、店を出る。 月明かりの眩しい夜だった。 |