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 嫌な予感ほど、良く当たる。





ザン

 解放した紅姫を薙ぎ払った。

 虚は跡形もなく消えて。

「………」

 刺さるような視線と…

 香る血の匂いに眉を寄せながら、浦原は振り返った。

 その瞳に、目を丸くしたを捉えた。

 そう、虚に襲われていたのはだったのだ。

 抱えて飛び退いたはいいが、完全に避け切れずに怪我を負わせてしまったらしい。

「………っ…!」

 その場に佇む浦原と、塵のように消えてゆく虚を見比べて、はわずかに唇を噛んだ。

 この化け物は、一体何なのだろう?

 何故、自分が襲われたのだろう?

 そして。

 浦原は… 何者なのだろう?

 わずかに怯えたその瞳に、浦原は細く笑った。

「遅くなりました。 怖い思いをさせたみたいっスねェ…」

 スっと、手を差し伸べる。

「立てますか?」

 その声に、は我に返った。

 じっと、浦原を見上げる。

 浦原は、いつもと変わらない、作り物のような笑みを浮かべていた。

「………」

 聞きたい事はたくさんあった筈なのに…

 そんな表情をされると、何も言えなくなる。



『アタシと一緒に来ませんか?』



 はおずおずと手を取った。

「あ… ありがとう… ございます…」

 そして…

「………浦原… 隊、長…」

 何故だろう。

 自分の口から出た言葉に、は驚いた。

 だが以上に、驚いたのは浦原である。

 その呼吸が止まった。

 今、何て…?

「 ――――― … さん?」

 少女は、何も言わずに自分を見上げている。

 曇りのない、真っ直ぐな瞳…

「………ッ………」

 何故だろう、口の中がカラカラに渇いて…

 上手く言葉が出ない。

「…………」

 浦原の声に、の瞳が揺れる。

 胸が締め付けられるような、そんな気分になった。

 そっと、少女の顎を持ち上げて。

 指で唇をなぞり、もう片方の手で華奢な身体を抱き寄せた。

 先に顔を近付けたのは浦原で。

 先に目を閉じたのは、だった。

 唇が触れる直前…

ガクッ

「!」

 の身体が膝から崩れた。

 浦原に支えられたまま、気を失ってしまったようだ。

「……… ――――― 」

 帽子を目深まで被って、小さく溜息を吐く。

「…なーに欲情してるんですかねェ…」

 自嘲気味に呟いて。

「………無事で良かった。」

 少し強く、を抱き締めた。


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