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コト

「どうぞ… あの、お茶です…」

 浦原商店の一室。

 向き合うように座った、浦原と

 お茶を出しに来た雨は、二人の顔を見比べた。

「ありがとう、雨。 悪いけど、ちょっと外してもらえる?」

 にこりと笑った浦原の声に、雨は小さく頷いていそいそと部屋を出て行った。

 重苦しい、沈黙の流れる中。

 ちらっとを見るが、はぎゅっとスカートの裾を強く握るだけで、浦原の顔を見ようともしない。

 目深に被った帽子の下で、浦原の瞳が揺れた。

「…何か、アタシに話があるんじゃないんですか? さん?」

 俯いていた顔を上げたは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 じっと浦原を見据えて、小さく震える手を強く握る。

「………店長さん………」

「はい、何でしょう?」

 は一度まばたきをした。

「…店長さんは、"運命"って信じますか?」



『ねぇ、"運命"って、信じる?』



 真剣なその眼差しに、ある面影が重なる。

「人は、死んだら生まれ変わるんだって… どこから来てどこに行くのか、それも全部決まってるんだって…」

 はまっすぐに浦原を見つめた。

「あたし… 最近、変なんです………」

「どう言う意味ですか?」

 言葉を探すかのように、わずかに目を伏せる。

「変な夢を見るんです… 起きていても、変なお化けみたいなのが見えるし……… 今こうしているのだって、現実なのか夢なのかはっきりわからない…」

 浦原は目を細めた。

「何故アタシに話すんですか?」

「だって………」

 はぎゅっと拳を握った。

「店長さんは… 夢の中であたしに手を差し伸べてくれた人だから…」

 浦原は息を飲んだ。

 だが、帽子のおかげでにその表情は見えない。

「あたしが知らないあたし自身の事… 知ってるんですよね?」

 は続けた。

「教えて下さい! どんな事でもいいから! モヤモヤしたままなんて嫌なんです! お願いします!」

 そう言って頭を下げる。

「……………」

 わずかな沈黙が、とても長い時間に感じられた。

「………フ………」

 浦原は口元だけで細く笑った。

 馬鹿にされたのかと、が眉を寄せて浦原を見据える。

 と。

「…………… ――――― 」

 その呼吸が止まった。

 そう思えるほどに、浦原の瞳は冷たかった。

「モヤモヤしたのが嫌… 自分を見失いそうなのが嫌… 全く、困ったお嬢さんですねェ…」

 じっとを見据えたまま、浦原は続ける。

「アナタは、ご自分で何かそれを解決すべく努力をしたんですか?」

 痛い。―――

「世の中には、考えても考えても、答えが出ない物が山ほどあるんですよ。」

 その真っ直ぐな視線が痛い。 ―――

「他人に聞いて教えてもらって、それで納得出来るんですか? 自分自身の事なのに? その他人の言う事を信じるんですか? そこにアナタの意思はないんですか?」

 が唇を噛んだ。

 浦原は更に追い討ちをかける。

「はっきり言いましょう、さん。」

 心にもない事を言う、せめてもの償いの心が痛い… ―――

「アタシはアナタを知りませんし、運命なんて信じてません。 それでもまだ… アタシの口から何か言葉が欲しいですか?」

ダッ

 言い終えるより先に、が飛び出した。

 一人残された部屋の中で、煙管に火を付ける。

 雨が降り出していた。


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