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「………」

 はそれを睨み据えた。

 燃えるような真紅の瞳に、圧倒されそうになる。

 だが…

(何だ…?)

 やはりそうだ。

 禍々しいまでの巨大な霊圧を放ってはいるが、麒麟からは敵意を感じない。

「…出ましたね…」

 西道が麒麟を睨み据えた。

「! ならぬ! このような所で戦えば…!」

 瀞霊廷はただならぬ被害を被るであろう。

 西道は聞く耳持たず、斬魄刀を抜い…

ドッ

 それより先に、がその腹を打った。

「なっ…?」

 西道の体が、その場に崩れる。

「先程の仕返しだ! 動けるのならば追って来い!」

 その言葉を残して、は姿を消した。

 瞬歩だ。

「っ…! なりませぬ、殿!! 貴殿では、ヤツを傷つける事は出来ません!!」

 を追って、麒麟も姿を消し。

 一人残された西道は、舌打ちをした。















ザッ

 尸魂界・北の外れ。

 瀞霊廷から大分離れたその場所で、は髪をかき上げた。

「…なるほど、速いな。」

 自分を追ってすぐに姿を現した神獣・麒麟に声をかける。

 麒麟はその真紅の眼にの姿を映すだけで、ぴくりとも動かない。

(何だ…?)

 は眉を寄せた。

 燃えるかのように紅いその瞳は、泣いているかのように見える。

「………」

 はじっと麒麟を見据えたまま、ゆっくりと近付いた。

 麒麟は動くわけでもなく、ただを見据えている。

 手を伸ばせば触れられるほどまでに近寄って、はその目に麒麟を姿を捕らえた。

 麒麟は首を動かしてそっと、の肩の傷にその口を近づける。

「…お前…」

 が何か言いかけた時だった。

「切り裂け! 白虎!!」

 その声と同時に、白い虎の姿を象った風が襲い掛かる。

 咄嗟にその場を離れた。

 が飛び退くのと、麒麟が姿を消すのはほぼ同時だった。

 風がその地面を抉り、轟音が轟いた。

ゴォオオオ

 吹き荒れる突風に、強く踏みとどまる事で堪える。

「逃がしたか…!」

 ほどなくして風は止み、西道は舌打ちをした。

 の方に振り返る。

「…みすみす喰われてやる気だったのですか?」

 怒気を含んだ声。

 何も言わないに、西道は小さく息を吐いた。

 じぃっと…

 麒麟が消えた方角を見据える。

(違う… アヤツは………)

 黒曜石の瞳が揺れた。


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