11


バタバタバタ…

 近付いて来る慌しい足音に。

 ひくっ…

 日番谷は頬を引きつらせた。

バン

 十番隊執務室のドアが開くと同時に。

「テメェ…! " ちょっと行って来る " で、何で半日も帰って来な…!!」

 と、怒鳴りつけるが。

「すまぬ、日番谷。 実は面倒ごとに巻き込まれてな。」

 その日番谷の声を遮って、が続ける。

「半日どころか、一日〜二日、瀞霊廷を離れる事になりそうだ。 途中で悪いが、書類の山は任せるぞ。」

 ずいっとその顔を覗きこむように、間近で見据えた。

 突然顔を近付けられて、日番谷は言葉を飲み込んだ。

「藍染等に何か動きがあった場合、霊圧を上げて知らせてくれ。 すぐに戻って来るから。 それと…」

 ひらりと日番谷の脇を通り過ぎた。

「無茶は出来るだけしないが… もし私の霊圧に変化があっても、探さないでくれ。 頼んだぞ。」

 日番谷の反論を許さないかのように、早口で一気に捲くし立てて。

「じゃ、またな!」

「あ、オイ、っ!」

 日番谷の声に振り返る事もせずに、はそのまま窓の外へ消えた。

「な… 何だよ…」

 その呟きに、答える声があった。

「…本当に困った方ですよ。」

 聞き覚えの無い声に、日番谷は振り返り様に氷輪丸の柄に手をかけた。

「誰だ、テメェ?」

 日番谷の声に、西道は首を竦めた。

殿を追っていますので失敬。」

 ぺこりと頭を下げて、に続き窓から飛び出す。

 一人、執務室に残されて、日番谷は目をぱちくりさせた。

「な… なんなんだ…?」















バン

 次にが訪ねたのは。

 一番隊・隊主室。

「…騒々しいのう。 その分だと、あやつと会ったようじゃな。」

「悪いが追われている。 お前に一言だけ告げに来た。」

 は隊主室の中へ歩み寄り、総隊長の耳元で囁いた。

「…月華の能力を解放する。 だから、瀞霊廷を離れる事にした。」

 長い眉毛の下で、総隊長は目を細めた。

「…無茶するでないぞ。」

「わかっている。」

 はそれだけを告げると、そのまま手すりに身を乗り出し窓の外へ消えた。

殿!」

 入れ違いで、西道が隊主室へ踏み込んだ。

 その場には、もう総隊長の姿しか見えない。

 西道は疲れたように溜息を吐いた。

「貴方のおっしゃる通り、一筋縄では行かぬ方ですね…」

「…おぬしも振り回されておるようじゃのう。」

 総隊長は小さく笑った。

「ええ。 狙われていると言うのに… それほど、己が力に絶対の自信があるのでしょう。」

 苦虫を噛み潰したかのように、西道が口元だけで笑った。

 総隊長はじっと西道を見据えた。

は… おぬしに己が持つ斬魄刀の能力を話したか?」

 突然の問いに、西道は不審そうに眉を寄せた。

「いえ。 伺っておりません。」

「そうか…」

 小さく頷いたきり何も言わない総隊長を不審に思ったが、西道はそのままを追うことにした。

「…ふむ…」

 長い髭を撫でながら、総隊長は溜息を吐いた。

「…どちらも曲者じゃからのぅ。 やれやれ…」


back