ガラ ガラガラ… 舞い上がる砂埃。 「クッ…」 体を強く打って、西道は顔を顰めた。 「…テメェ… 嫌な時に出やがって…」 真紅の瞳をした神獣。 捜し求めていた、麒麟の姿がそこにある。 コォオ… 静かに、その霊圧が上がった。 「ハッ… 俺を喰うか…」 答える声は無い。 グ… 斬魄刀を支えに、立ち上がろうと力を入れる。 だが、思ったよりも体力が消耗していて。 「…ちっ!」 立ち上がることが出来ずに、西道は舌打ちをした。 『…己が始祖が、何をしていたのか知っているのか?』 西道の瞳が揺れた。 「…知ってるさ… だから…」 まっすぐに、麒麟を見据える。 「刺し違えても構わねえ。 麒麟(てめぇ)は、俺が止めてやるよ。」 バチッ バチバチ… ズオァ 膨れ上がる霊圧に、辺りの空間が歪んだ。 「…来い…」 金色と真紅の瞳の視線が交わる。 麒麟が駆け出し… ド 自分の背後から伸びた光に、西道は目を疑った。 「なっ… 鬼道…?」 凛とした声が、その耳に届く。 「縛道の六十一・六杖光牢。」 光の帯がその体を貫き、麒麟の自由を奪った。 西道は視線だけをそちらに投げて、自嘲するかのように細く笑った。 「…俺を笑いに来たんですか?」 風に髪を遊ばれながら、西道を一瞥したのはだった。 「皮肉が利けるなら大丈夫だな。 邪魔だ、下がれ。」 と、冷たく言い放つ。 西道は首を竦めた。 「無茶言いなさんな。 新手のイジメかい?」 手を差し出すような事もせず、この場から去れと言うに。 西道は小さく首を振った。 「ほぅ。 クソアマの手を借りるのか。」 が視線を麒麟に移す。 「地獄耳な上に根に持つタイプなのね…」 西道は小さく息を吐いた。 フォオ 霊圧が渦を巻く。 自由を奪われて猶、その姿は圧巻だった。 「…見ろよ、あの眼。」 西道が呟く。 燃えるような、紅い瞳。 「劣勢だってのに、少しも臆しちゃいねえ…」 ちらっと、を見上げた。 「相手は神獣だ。 …アンタじゃ、アイツを殺せない。 …どうすんだい?」 は目を細めた。 「…聞こえないのか? アヤツの悲鳴が…」 「悲鳴…?」 の声に、西道は眉を寄せた。 がじっと、麒麟を見据えた。 「私は、アヤツを救う。 邪魔立てするならば、貴様を斬る。」 本気とも冗談とも取れない声色に、西道は小さく首を竦める。 「…やれるものならどうぞ。 …どーせ俺は今動けませんから。」 背中越しにその声を聞いて、はわずかに眉を寄せた。 腰に差した月華の柄を握って。 「…参ったな…」 バツの悪そうに頭を掻く。 「…せめて、気を失ってくれていた方がよかった…」 まだ総隊長である山本にしか、その能力は明かしていない。 フォォオオオオオ 動きを封じられながらも、麒麟は更に霊圧を上げた。 の縛道を焼ききり、逃げようとしているのだろうか。 「……… ――――― 」 は目を細めた。 鞘から斬魄刀を抜く。 その切っ先を、まっすぐに麒麟に向けて。 「輝け、『月華』。」 斬魄刀の能力を解放させる。 じぃっと、燃えるような瞳を見据えて。 一度、まばたきをした。 「…堕ちろ、気高き神獣…」 月華の刀身は淡い光を放ち。 やがて、辺り一面は光に包まれた。 |