一度、ゆっくりとまばたきをした。 「ヤツは苦しみから逃れる為に、人を喰っているとばかり思っていた。」 寝台に横たわったまま、西道は続ける。 「俺と対峙してる時、別の何かを感じたんだろう。 そのまま、消えちまった…」 そっと、目を閉じる。 「総隊長の爺さんに事情を話したところ、アンタの名が挙がった…」 首だけを少し動かして、金色の瞳に少女の姿を捕らえた。 「…ヤツは、私を喰らおうとしていたのではない。 私に救って欲しかったのだ。」 の瞳が揺れた。 麒麟がを本気で喰らおうとしていたなら、簡単に出来たはずだ。 「………」 四番隊・救護詰所。 目覚めた時、西道は既に手当てを受けていた。 「…アンタが運んだんだよな? ………甘いな…」 は小さく息を吐いた。 「動けぬ者をあの場に残して行けるほど、非情にはなれぬ。」 そう言いながら、腕に抱いた小さな生き物の頭を撫でた。 「だからソイツも消せなかったのかい?」 西道は目を細めた。 子猫程の大きさで、毛並みの美しい動物。 額の中心には短いながら角が生えており、その無邪気な大きな瞳は燃えるように紅い。 そう、麒麟である。 「コヤツも犠牲者だ。 救う手立てがあるのなら、みすみす殺さずともよいだろう。」 に撫でられながら、気持ちよさそうに目をとろんとさせている。 「今のコヤツは何も知らぬ弥々だ。 永き時を生きれば、再び神獣としての力も取り戻すだろう。」 「…で? そんでまた暴れたらどうすんだい?」 は一度目を伏せて、まっすぐに西道を見据えた。 「…止めて見せるさ。 何度でも。」 「………クッ………」 予想した通りの言葉に、西道は喉の奥で笑いをかみ殺した。 「つくづく甘いなぁ… 犠牲なくして平和はないぜ?」 麒麟の頭を優しく撫でながら、は口を利いた。 「わかっている。 だが、忘れるな。」 まっすぐに西道を見据える。 「その甘さのおかげで、貴様は命を拾ったのだ。」 は振り返った。 艶やかな髪が、その動きに合わせて揺れる。 「行く宛てもないのだろう? 山本に口を利いておく。 護廷十三隊で働け。 思っているほど悪くない。」 背中越しに続けた。 「貴様程の力があれば、空席になっている隊長席も務まるだろう。」 ゆっくり、歩き出す。 「どこへ? アンタも力使ってフラフラなんだろ?」 「皆忙しさのあまり目を回している。 私だけ休む訳にも行かんのだ。」 小さく首を振って続けた。 「貴様はゆっくり休め。 傷を癒して… そして、己の思うがままにすればいい。」 その言葉を残して、は去った。 一人残されて、ぼーっと白い天井を見上げる。 「…甘いんだかキツイんだか… 優しいんだか短気なんだか… …わかんねぇなァ………」 開いた窓から入り込んだ風が、その頬を撫でた。 「けど………」 金色の瞳が揺れる。 「…防人一族、か…」 口元だけで、細く笑った。 「…想像してたよりずっとマシだな…」 そっと、宙に手を伸ばす。 「白虎…」 呟いた途端、白い風が西道の体を包んだ。 「…お前は、どこまでも俺に付いて来るだろ?」 その声に答えるかのように、白い風が優しく吹いた。 |