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パタッ

パタタッ

 一粒二粒と、紅い雫が散る。

 は眉を寄せた。

 先程の妙な白昼夢。

 何かを案じさせるかのような夢だった。

 呼び出されたついでに、話を聞いてみよう。

 そう思っていたのに…

「何度も、断ると言ったはずだ…」

 総隊長の話とは、今まで何度も切り出され、その度断り続けてきた話だった。

「儂の方からも何度も言っておるが、隊としての存在を認める以上譲れんのじゃ。」

 話とは他でもない。

 零番隊、副官の話。

「前にも言ったはずだが、私は、己と同等に戦えるほどの者ではないと副官として認めぬ。 私に副官を付けたいのなら、喜助か夜一でも連れて来い。」

 断固として首を縦に振らないの様子に、総隊長は小さく溜息を吐いた。

「もしもの時を恐れるおぬしの気持ちはわかる。 じゃが、無茶を言うでない、。」

 死神とは、常に死と隣り合わせの存在。

 もしもの事を恐れるのは、わかる。

 巨大すぎる己の力はいずれ、周囲の者を傷付ける事になる。

 そう言ったの憂いもわかる。

 わかるが…

「近々、そやつと会うことになるじゃろう。」

 何か言おうとしたの声を遮って続けた。

「心配せんでも腕は立つ。 副官にするしないは別として、しばらくはそやつと行動を共にせよ。」

チリッ

 が目を細めた。

「…一々霊圧を上げるでない。 儂の話はそれだけじゃ。」

 総隊長の言葉に、は眉を寄せた。

「敵方に動きがあった訳ではないのだな?」

 その声に、総隊長が頷く。

 は疲れたように溜息を吐いた。

「副官はいらぬ。 そやつにも会わぬ。」

 小さく首を振って続ける。

「飛び込んできたのは、面倒事だけのようだな。 私に、一体何をさせようと言うのだ?」

 総隊長自ら、改めてに話を持ち出したのだ。

 きっと、何か面倒が絡んでいるのだろう。

 総隊長はだんまりを決め込んだ。

 は小さく息を吐いた。

「…時間を無駄にした。 失礼する。」

 裾を翻した。

パタン

 一人、隊主室に残されて、総隊長は長い髭を撫でた。

「…おぬしのことじゃ、気付いておるのじゃろう。 ここ数日の尸魂界の霊圧の動きに…」

『飛び込んできたのは、面倒事だけのようだな。』

 気付いていなければ、そのような発言はしなかっただろう。

 藍染等にいつ動きがあってもおかしくない、警戒を続けているこの時期。

 正直な所、すら関わらせたくない。

 もそれを知っているのだろう。

 だから、気付いていながら動かずにいたのだ。

「儂等は管轄外じゃが、おぬしはそうも言っておれぬらしいのう…」

 敢えて呼び出して話を切り出したのは、それを悟らせるため。

「『好きにせよ』とは言うたが… …やれやれ、じゃのう…」

 あとは、当人達がどう動くか。

 虚側との戦の前に、尸魂界の存続をかけた戦いが始まろうとしていた。


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