「これで、もう大丈夫ですよ。 安静にして下さいね。」 書類を残して来た十番隊執務室に戻る途中。 「ありがとう。 気を付けるよ。」 の腕に包帯を巻いてくれたのは、四番隊・第七席の山田花太郎だった。 各隊に薬品を補充しに回っている所、偶然に会ったのだ。 「でも、どうしたんですか、それ?」 花太郎は眉を寄せた。 「刀で斬られた傷じゃないし、かと言って、ぶつけたり、殴られたような傷でもないし…」 「どこで怪我をしたか、私自身覚えていないんだ。 あまり詮索はしないでくれ。」 まさか、夢の中で負った怪我だとは言えず、は適当に誤魔化すことにした。 温い風が、二人の頬を撫でる。 花太郎はわずかに目を伏せた。 「…ありがとう、ございました…」 突然の謝礼の言葉に、は目をぱちくりさせた。 「先日の騒動で、旅禍の皆さんのお手伝いをした僕の事… 卯ノ花隊長に口を利いて下さったの、さんですよね?」 花太郎がを見てにこりと微笑む。 「おかげで罰を受けずに済みました。 本当にありがとうございます。」 ぺこりと頭を下げられて。 照れくさいのか、はぽりぽりと頬を掻いた。 「私こそ、礼を言うぞ。 イチゴ達と、それにルキアも世話になったようだな。」 花太郎が小さく首を振る。 「僕は… 自分のやりたいようにやっただけです。 必死になってルキアさんを助けようとする一護さん達を、黙ってみてる事が出来なくて…」 花太郎は苦笑った。 「何甘いことを言ってるんですかね、僕… こんなんじゃ、死神失格ですよね…」 「よいではないか。」 花太郎の声を遮る。 「その優しさと意志の強さを忘れずにいれば、立派な死神になれるだろう。」 呟かれたの声は、花太郎の胸に響いた。 「あの、僕… がんばります…!」 グッと拳を握った花太郎。 は小さく笑った。 「ルキアが一度、ちゃんと礼をしたいと言っていた。 今度、屋敷にも遊びに来い。」 「えぇっ、屋敷って… 朽木家ですか? いや、その… 僕のような下々の者がそんな無礼な事…」 予想した通りの反応に、は危うく吹き出しそうになった。 「私が来いと言っているんだ。 素直に従えばよい。」 「はぁ… か、考えておきます…」 困った顔をして少し俯いてしまった花太郎。 その様子に、は細く笑っ… 「 ――――― !」 妙な気配に、は振り返った。 「? あ、あの、どうかしたんで…」 「ここにいろ。」 突然のの行動に首を傾げた花太郎の声を遮る。 は地を蹴った。 真向かいの建物の屋根に上って、周囲の霊圧を探った。 (何だ…?) 妙な気配も今の一瞬感じただけ。 尸魂界に変わった様子はない。 「さんー! どうしたんですか?」 花太郎が手すりから身を乗り出して、声を投げた。 「いや、何でもない。 大丈夫…」 コツ は息を飲んだ。 夢で見た生き物が、その場にいる。 ふ っ … 「!!」 それはまっすぐにに向かって来たかと思えば、そのままの体をすり抜けた。 (なっ…?) 肩越しに視線を投げるが、もうその場に姿はない。 ただ、一対の真紅の眼に見られているような気がして… クラァ… 意識が途切れた。 屋根の上で、小さな体が傾いた。 花太郎は目を見張った。 「さんっ!!」 |