3


「これで、もう大丈夫ですよ。 安静にして下さいね。」

 書類を残して来た十番隊執務室に戻る途中。

「ありがとう。 気を付けるよ。」

 の腕に包帯を巻いてくれたのは、四番隊・第七席の山田花太郎だった。

 各隊に薬品を補充しに回っている所、偶然に会ったのだ。

「でも、どうしたんですか、それ?」

 花太郎は眉を寄せた。

「刀で斬られた傷じゃないし、かと言って、ぶつけたり、殴られたような傷でもないし…」

「どこで怪我をしたか、私自身覚えていないんだ。 あまり詮索はしないでくれ。」

 まさか、夢の中で負った怪我だとは言えず、は適当に誤魔化すことにした。

 温い風が、二人の頬を撫でる。

 花太郎はわずかに目を伏せた。

「…ありがとう、ございました…」

 突然の謝礼の言葉に、は目をぱちくりさせた。

「先日の騒動で、旅禍の皆さんのお手伝いをした僕の事… 卯ノ花隊長に口を利いて下さったの、さんですよね?」

 花太郎がを見てにこりと微笑む。

「おかげで罰を受けずに済みました。 本当にありがとうございます。」

 ぺこりと頭を下げられて。

 照れくさいのか、はぽりぽりと頬を掻いた。

「私こそ、礼を言うぞ。 イチゴ達と、それにルキアも世話になったようだな。」

 花太郎が小さく首を振る。

「僕は… 自分のやりたいようにやっただけです。 必死になってルキアさんを助けようとする一護さん達を、黙ってみてる事が出来なくて…」

 花太郎は苦笑った。

「何甘いことを言ってるんですかね、僕… こんなんじゃ、死神失格ですよね…」

「よいではないか。」

 花太郎の声を遮る。

「その優しさと意志の強さを忘れずにいれば、立派な死神になれるだろう。」

 呟かれたの声は、花太郎の胸に響いた。

「あの、僕… がんばります…!」

 グッと拳を握った花太郎。

 は小さく笑った。

「ルキアが一度、ちゃんと礼をしたいと言っていた。 今度、屋敷にも遊びに来い。」

「えぇっ、屋敷って… 朽木家ですか? いや、その… 僕のような下々の者がそんな無礼な事…」

 予想した通りの反応に、は危うく吹き出しそうになった。

「私が来いと言っているんだ。 素直に従えばよい。」

「はぁ… か、考えておきます…」

 困った顔をして少し俯いてしまった花太郎。

 その様子に、は細く笑っ…

「 ――――― !」

 妙な気配に、は振り返った。

「? あ、あの、どうかしたんで…」

「ここにいろ。」

 突然のの行動に首を傾げた花太郎の声を遮る。

 は地を蹴った。

 真向かいの建物の屋根に上って、周囲の霊圧を探った。

(何だ…?)

 妙な気配も今の一瞬感じただけ。

 尸魂界に変わった様子はない。

さんー! どうしたんですか?」

 花太郎が手すりから身を乗り出して、声を投げた。

「いや、何でもない。 大丈夫…」

コツ

 は息を飲んだ。

 夢で見た生き物が、その場にいる。

ふ っ …

「!!」

 それはまっすぐにに向かって来たかと思えば、そのままの体をすり抜けた。

(なっ…?)

 肩越しに視線を投げるが、もうその場に姿はない。

 ただ、一対の真紅の眼に見られているような気がして…

クラァ…

 意識が途切れた。

 屋根の上で、小さな体が傾いた。

 花太郎は目を見張った。

さんっ!!」


back