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バサッ

 白い張羅の裾が翻る。

 双極の丘の、壊れた磔架の上。

「… ――― 」

 が目を細めた。

スラァ

 腰に差した斬魄刀を抜き。

ザッ

 そのまま斬りかかった。

ギィインッ

 突然の攻撃を弾いて、間合いを取る。

「…やれやれ。 ご立腹のようですね…」

 西道が首を竦めた。

「あいにくと気が短くてな。 先程世話になった礼だ。」

 月華を片手に飛び掛る。

ガッ

 斬魄刀でそれを受けて、西道はにこりと笑った。

「どうかお手柔らかに。」

ガン

 弾いた。

ザザァッ

 体勢を立て直して、は眉を寄せた。

「…随分回りくどい事をしてくれたな。」

 風に、艶やかな髪が揺れた。

「…おかげで貴様の正体が掴めた。」

「ほう… 私の正体、ですか…」

 金色の目を細める。

「ああ…」

 は続ける。

「…だが、残念ながら貴様の目的がわからぬ。 仕掛けぬ所を見ると、私を始末しに来た訳ではなさそうだ。」

 黒曜石の瞳が揺れた。

「四聖族が一・西方白虎… 瀞霊廷に何用だ?」

 西道はじっとを見据えた。

「ご名答。 さすがは防人一族が末裔。 理解が早くて助かります。」

 西道は口元だけで細く笑った。

「いかにも。 私は西方白虎族が一・昴(すばる)の星を継ぐ者…」

ザッ

 膝を付いて、頭を垂れる。

「突然にこのような事を申す事、重々ご無礼だと存じていますが…」

 西道は唇を噛んだ。

「貴殿のお力が必要なのです。 どうかお力添えを…」

 が目を細めた。

「四聖族ともあろう者が、防人に助けを求めるか…」





 四聖族とは、防人一族より低い位に位置する王族特務の最下位一族である。

 東西南北それぞれの方位に祭られし聖獣の力を借り、尸魂界を護って来た。

 防人一族亡き後は、ここぞとばかりに力を伸ばした一族である。

 古来より、両一族は険悪な関係にあった。





「…それほどに、今度ばかりは相手が悪いのです。」

 西道は眉を寄せた。

殿…」

 顔を上げて、じぃっとを見据えた。

「貴殿は、麒麟(キリン)をご存知ですか?」


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