『…今は、何を望む?』

 手を差し伸べる自分を見て、少女は笑った。

 いつもの、悪戯っぽい表情で。

『私は…』













I WISH ...

            第1章 封印されし少女














たとえば 今 私が姿を消したとして

一体誰が それに気付くのだろう














「たーいちょ!」

 もう大分慣れた副官の声。

 日番谷冬獅郎は目を開けた。

「ま、松本………?」

 まだ寝惚けているのだろうか、焦点が合っていない。

 日番谷は小さく頭を振った。

「少し魘されてましたけど、疲れてます? 大丈夫ですか?」

 松本の声には答えず、机の隅に置いてある湯飲みに口を付けた。

 大分温い… いや、それはすでに冷たくなっていた。

「…大分寝てたみたいだな。」

「ええ。 アタシが一眠りして起きた後も、隊長はまだ寝てましたから。」

「そうか…ん?」

 日番谷は眉を寄せた。

「お前も寝てたのか…」

「あはっ♪ 細かい事は、気にしない!」

 副官の軽いノリに、わずかに頭を抱える。

ふと。

「隊長、地獄蝶です。」

 松本の声に頷く。

 ひらひらと舞う漆黒の蝶。

「…嫌な予感がするな。」

 苦々しく毒づいた。

『隊長各位に伝令です。』

 地獄蝶は続ける。

『隊長各位は直ちに招集。 以上。』

 日番谷は溜息を吐いた。

「誰が何をやらかしたか知らねえが、ったく迷惑だぜ。」

 毒づいて、腰を上げる。

「行ってらっしゃ〜い!」

 手を振る松本に見送られ、日番谷は10番隊執務室を後にした。

 これから面倒な事が起こるとは知らずに。


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