「…クソ…」

 少女が舌打ちをした。

 人里離れた場所。

 今、そこには少女と、大きな虚の姿がある。

 少女が持つ斬魄刀は、浅打。

 護廷十三隊に入れぬ、下級の死神が持つ物だ。

 そんな物で倒せるほど、目の前の敵は優しくない。

「食ってやるぅー!」

 醜い口を大きく開けて、虚は少女に舌を伸ばした。

 それを避けて、少女は虚に飛び掛った。

 斬魄刀は使い物にならないと思ったのか、蹴りを食らわす。

(鬼道が何だ! そんな物使わなくとも…)

 小さい体から、繰り出されるは体術。

 虚はにやりと笑った。

「…霊力を持たない死神がいるって聞いた事がある…」

 少女が息を飲んだ。

「…お前か、小娘!」

バシッ

 虚の霊力に弾かれた。

 少女の小さな体が、地に叩き付けられる。

「くっ…!」

 少女が眉を寄せた。

「恐れずに向かってきたのは褒めてやろう。 だが…」

 虚が舌なめずりをした。

「ここまでだ!!」

「!」

 虚の長い舌に体を巻き付けられ、少女の体が宙に浮く。

 その生温かさとヌルヌルした感触に、少女が眉を寄せた。

「放せ、化け物!!」

 威勢が言い餌に満足したのか。

 虚は嬉しそうに笑った。







I WISH ...

            第10章 再会








煌く刃

鮮やかに舞う紅

翻る死覇装の裾

突然現れたあなたは…

私に新しい世界をくれた








ドン

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 少女の体を高く持ち上げていた虚の舌が切れて…

「え…?」

 突然の浮遊感に襲われる。

「き、きゃぁあっ!」

 虚の舌に絡まれたまま、少女の体が地に落ちる。

 きつく目を瞑った。

 と、衝撃が無い事に首を傾げ、恐る恐る目を開ける。

 見知らぬ男の腕に、抱き締められていた。

「大丈夫でスか?」

 聞き覚えのない声。

「貴様ーっ、よくも邪魔を…!!」

 怒り狂った虚が、牙を剥く。

ドッ

 その頭を一突きにした。

 虚はその場に崩れ、塵のように跡形もなく消える。

 首を傾げる少女に、男はにこりと笑った。

「どーも。 はじめまして、さん♪」

 は男を知らないのに、男はを知っているようだ。

「虚が怖くないんでスか? まったく、勇敢な人だ。」

 が男を睨み上げた。

 男が困ったように、首を竦める。

「アタシは、浦原喜助と言いまス。 どうぞよろし…」

ドゴッ

 少女の右ストレートが炸裂した。

「無礼者! いつまで抱えておるつもりだ!!」

 思いきり殴られて、そのまま後ろへ倒れた。

 はと言うと、浦原の腕から抜け出し、何事もなかったかのように地に足を付け、訝しそうに眉を寄せている。

「やれやれ…」

 浦原がゆっくり上体を起こした。

「聞きに勝るお転婆姫っスねえ…」

 鼻を擦りながら、浦原が少女を見上げる。

「ん、元気が一番っスよ。 アタシは好きでスねえ、元気な人。」



 つかみ所のない変な男。

 でも、強い。

 それが喜助の、最初の印象だった。


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