バシィッ

 幼い頃、理由も判らず、ただ母に虐待を受けていた。

 物心付いた時から防人一族の里、そこからわずかに離れた場所に住まわされていた。

 礼儀作法や、歴史風土の勉強など。

 楽しくもなんともない勉強ばかりを強要され、今のならうんざりして逃げ出しただろう。

 だが、当時はそれが当たり前だと思っていたので、それを苦痛に感じる訳もなく素直に従っていた。

 退屈だと、苦痛だと思い出したのは…

 母の虐待が嫌になり、初めて里を逃げ出した時。

 その時に。

『…誰だ…?』

 初めて、声をかけられた。

『…大丈夫か?』

 動けなくなっていた自分に、差し伸べられた小さな手。

 それを握り返した時。

 人の手が温かいと言う事を、初めて知った時だった。







I WISH ...

            第16章 血の中の記憶








鮮やかな紅に魅入られて…

それを散らすは

剣か 私か…








 母が亡くなった後は、それまでに比べて落ち着いた時と過ごしていた。

 ただ、元より微弱だった霊力が一切失われた。

 それを補おうと、文字通り血の滲むような努力をして、剣技や体術では一族の子供達の間でも随一の腕前だった。

 しかし、それすら気に食わないのだろう。

 「妾の子」と蔑み、一族の者は誰一人を相手にしなかった。

「…大人は汚い… 私は、あのような大人にはならぬ…!」

 の声に、浦原が首を竦めた。

「皆、自分が弱いのを知られたくないんスよ。 だから、ドロドロした物が渦を巻いて… この世界は汚れて行くんです。」

「…でも、綺麗なものもいるぞ。」

 浦原は小さく笑った。

「そうっスねぇ〜… さんは綺麗ですよ。」

 その声に、驚いたように浦原を見上げる。

「何を驚くんですか? アナタは綺麗ですよ。」

 真正面から人に褒められるのは初めてだ。

「あ、ありがとう… /// 」

 その頬に朱が差した。





* 第十六章、壁紙ダークです。

 ご観覧の際にはお気をつけ下さい。


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