屋敷の離れ。

 白哉がそのドアを開けた。

 部屋の隅に、きれいに平らげられた食事の膳を載せた盆がある。

 部屋は広く、日当たりの良い場所。

 大きな窓から、庭が一望でき、そのまま庭に下りる事も可能だ。

 幾分か慣れたとは言え、白哉は小さく息を吐いた。







I WISH ...

            第2章 二つの斬魄刀








たとえば 私が傷付き倒れたなら

嘘でもいい

誰か心配してくれるだろうか








「あ、朽木隊長! おはようございます。」

 阿散井恋次が首を傾げた。

「めずらしいっすね、散歩ですか?」

 貴族である白哉は、命令でもない限り、一人で出歩く事はあまりしない。

 恋次愛用の茶屋で会うなんて、思いもよらなかった。

「…恋次、一人か?」

 白哉が眉を寄せる。

「ええ、見ての通り。」

 恋次の声に、白哉が小さく溜息を吐く。

「…を探しているんですか?」

 恋次が突然、そんな事を言った。

「…お前には関係ない。」

 白哉は無表情でそう告げると、踵を返して歩き出した。

 その後姿が大分小さくなって、やがて見えなくなった頃。

「こら! 阿散井!」

 机の下から、が顔を出した。

「私は匿えと言ったんだ! 何故、私の名前を出す!」

 そう言いながら、少女は恋次の隣に座る。

「うるせーよ、! 次は匿ってやんねえぞ!」

 恋次が小さく息を吐いた。

「…俺もう、隊長を騙すのはごめんだからな。」

「まぁ、そう硬い事を言うな、阿散井。 白哉を騙せる奴なんて、いないぞ。 誇りに思え。」

 むちゃくちゃな事を言って、は立ち上がった。

「どこ行くんだよ、?」

 恋次が首を傾げた。

「雛森の所だ。 新しい一張羅のお披露目にな。」

 はその場でくるっと回って見せた。

「似合うか?」

 今日貰ったばかりの、新しい、隊衣。

 背には零と記されており、隊章は十字に並んだ二本の刀。

「はぁ、零番隊なぁ…」

 恋次の呟きに、はイタズラを思いついた子供のように、にっと笑った。

「じゃあな、阿散井!」

 元気に手を振って、駆け出す。

 腰には相変わらず、鎖が巻きつけられた斬魄刀。

 その後姿を見送りながら、恋次は何度目かわからない溜息を吐いた。

 ぱくっと、団子を食べる。

(わかんねえ… うまく行ってるとか、そんなんじゃないみたいだし…)

 は、食事と睡眠に関しては白哉の世話になっているようだ。

 だけど、相変わらず、白哉を避けているみたいで。

 こうして、食事を終えるとすぐに屋敷を飛び出しているらしい。

「…あんな様子だと、隊長何も言ってないんだろうな。」

 空は青く晴れていた。


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