「はい、お戻りになっております。」 大分慣れた側女の声。 その声で、来訪者が誰かを知った。 もとより、この場に訪ねて来る者は一人しかいない。 朽木家の離れ。 は、いつもの死覇装ではなく、薄紅色の振袖を身に着けていた。 I WISH ... 第6章 指輪 敵として対峙する事があるのなら 貴方は 私を斬ってくれるだろうか 私は 貴方を 斬れるだろうか 「白哉…」 少女の細い首に、霊圧を封じる環が付けられていた。 この少女にそんな物は意味がない事を知っているが、その程度の罰で済んだ事に、少し安心する。 が、懐から何かを取り出した。 一つの指輪である。 大分昔に、朽木白哉が少女に贈った物だ。 「…返すよ。 長い間持っていて、悪かった。」 小さな手を、そっと握り返した。 「コレは私がお前に贈った物だ。 返さずともよい。」 が困ったように首を振る。 「四大貴族が一、朽木家に代々伝わる結婚指輪なのだろう。 封霊主の私には、必要のない物だ。」 白哉は受け取らず、庭が一望出来る窓際へ歩み寄った。 任務を終えたのであろう。 と同様、死覇装ではなく藍色の着物を身に纏っていた。 「…白哉、何も言わないのは相変わらずだな。」 困ったような声。 「…お前が何か言葉をくれれば、私は変われただろう。」 腰の斬魄刀を、ぎゅっと握る。 「白哉、お前なら…!」 夜風に漆黒の髪が揺れた。 「…お前なら、私を斬ってくれるか? もしもの時が来れば…」 きっと、答えないだろう。 朽木白哉は、少女の望む言葉はくれない。 いつだって、そうだった。 「………ああ。」 短く答える声に、が目を丸くする。 「お前にもしもの事があれば、私がお前を斬ろう。 約束する。」 背を向けたまま、確かにそう言った。 「………ありがとう。」 少し強く、拳を握る。 何か、起こる。 そんな嫌な予感がした。 |