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「十番隊・日番谷、入ります。」

 がらっと、引き戸を開けた。

「!」

 日番谷は少し眉を寄せた。

「総隊長と、六番隊隊長… まだ二人だけか?」

 答える声はない。

「…チッ。」

 日番谷は小さく舌打ちをした。

 どうも、この物静かな六番隊隊長は苦手である。

 何をするにも眉一つ動かさず、卒なく全てをこなしてしまう。

 この男に感情と言う物は存在するのだろうか。

 日番谷は中に入って、他の隊長の到着を待った。

(…ぴりぴりしてやがる。)

 居心地の悪い空気に、思わず眉を寄せた。

「…私は反対です。」

 六番隊隊長・朽木白哉が静かにそう言った。

 おそらく自分が来る前に、総隊長と何か話をしていたのだろう。

(…珍しいな、朽木がジジイに意見してやがる。)

「そう言うな、朽木。 王族直々の命令じゃ。 我々は従うのみよ。」

 山本総隊長の声。

 白哉は何も言わず下がった。

 ぞろぞろと、他の隊長が集まって来る。

「さて。」

 山本元柳斎重国が小さく息を吐いた。

「急な招集だったがよく集まってくれた。 実は、皆に紹介したい者がおるんじゃ。」

 山本が少しだけ振り返った。

 そこには、いつからいたのであろう、一人の少女が佇んでいた。

「ほれ、名乗らんか。」

 山本の声に、少し眉を寄せて少女が口を利いた。

「…。」

 凛とした、物静かな声。

 少女の美しさを引き立てるような声だった。

「で、総隊長さん、この可愛らしいちゃんがどうかしたん?」

 早くもちゃんと馴れ馴れしく呼んでいるのは、三番隊隊長の市丸ギン。

「斬魄刀差し取るっちゅう事は、死神なん?」

 の腰に差した刀を見て、市丸が続けた。

「いや、小指の先程も霊圧を感じねえ。 そんなんで死神な訳ないだろ。」

 つまらなそうにそう言ったのは、十一番隊隊長・更木剣八。

 少女に興味はないらしい。

 やれやれと、山本が溜息を吐いた。

「少々訳ありでな、どこぞの隊に置きたいのだ。」

「随分急じゃないか、山じい。 でも、君みたいな可愛い子なら、ボク大歓迎だよ。」

 語尾にハートマークが付きそうな声で、八番隊隊長・京楽春水がにウィンクした。

「いや、どの隊に属するかは自身が決める。 それを決めるまで数日。 交代で各隊毎に面倒を見るように…」

「ちょっと待てよ。」

 山本の言葉を遮ったのは、日番谷だった。

「名前しか知らない女の面倒を見ろったって、納得行かねえ。 訳ありって、どんな訳だよ?」

 日番谷の声に、12対の視線が元柳斎へ注がれた。

「…最もな意見じゃが、今はまだ何も言えん。 一つだけ言うなら…」

 山本は一度言葉を切った。

「封印が解かれた。」

 無意識だろうか、少し上がった霊圧。

 それで、事態が緊迫している事を知る。

「…わかんねえけどわかった。」

 日番谷も、しぶしぶ頷いた。

「…この子は、少々気が短い。 だがどんな事態になろうとも、この斬魄刀を抜かせてはならん。」

 二番隊隊長・砕蜂が眉を寄せた。

「…護れと言う事か。」

 何も言わない。

 すなわち、肯定である。

「以上じゃ。 解散!」

 山本の一声で、その場は解散となった。

 じぃっと、と言う少女を見る。

 華奢な体に、黒衣の死覇装。

 漆黒の長い髪に、黒曜石のような瞳。

 無表情だが、何とも言えず美しい。

「…ちょっと、いいか?」

 そう言って少女の前に歩み出たのは、十三番隊隊長・浮竹十四郎。

 市丸や京楽にあれよこれよと一方的な話をされていた少女が、じぃっと浮竹を見上げる。

 浮竹は、少し躊躇いがちに口を利いた。

「…って、防人(さきもり)一族のか?」

 防人一族。

 この言葉に、数人の隊長達が眉を寄せた。

「そうだと言えば、どうする?」

 イタズラを思い付いた子供のように、少女が笑った。

 浮竹は弾けたように、山本を見やる。

 浮竹が何を言うより先に、白哉が口を挟んだ。

「…王族直々の命令だ。 兄等はただ、従えば良い。」

 少女が、まっすぐ白哉を見据えた。

 その視線に気付いていながら、白哉は何も言わず、そのままその場から立ち去ろうとした。

「…っ! 白哉ぁ!」

 少女の悲痛な声が、響いた。

 それでも白哉は、足を止めなかった。


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