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 恋次は息を飲んだ。

「…あ… …藍染隊長…!? なんで生きて… いや、それより今… 何て…!?」

 戸惑う恋次の声に、藍染は首を竦める。

「…妙だな。 聞こえていない筈はないだろう? 仕様のない子だ。 二度は聞き返すなよ。」

 藍染が恋次を見据えた。

「朽木ルキアを置いて、退がれと言ったんだ… 阿散井くん。」









「縛道の五十八『掴趾追雀』。」

 虎鉄勇音が続ける。

「…31 …64 …87 …97… 移転先を補足しました! 東・三百三十二、北・千五百六十六! ………双極です…!」

 卯ノ花が目を細めた。

「…解りました。 ではすぐに全ての隊長・副隊長の位置を詮索細くして伝信して下さい。 私達がここで知った、藍染惣右介の全てとその行き先を。」

 連れ去られたが気がかりだ。

「…そして同じ伝信を… あの旅禍達にもね。」

「………わかりました!」

 勇音が頷いた。

「…任せましたよ。 私はこれから、日番谷隊長と雛森副隊長の救命措置に入ります。」

 斬魄刀を静かに鞘から抜いて、卯ノ花は一度息を吐いた。

(任せましたよ、朽木隊長…)









 尸魂界の面々は驚きのあまり言葉を飲み込んだ。

 日番谷を、そして雛森を斬り、を連れて藍染達が双極の丘へ向かったとの伝言。

「…何だったんだ…? 今のは…」

 突然の伝言に、一護が目をぱちくりさせる。

「大体、隊長が隊長を斬ったとかって… 瀞霊廷内のモメ事じゃねえか… そんなの俺達に言ってどうすんだ?」

 眉を寄せる一護に、石田が軽く溜息を吐いた。

「言うべきだと判断したからだろう。」

「あ?」

 その声に、一護は益々訳がわからず首を傾げる。

「…わからないか、黒崎。」

 石田が一護を見据えた。

 藍染が、中央四十六室 ――― 瀞霊廷の最高司法機関を全滅させ。

 自分の目的を、恰もその四十六室の決定であるかのように見せかけて遂行しようとしていたのなら。

「その目的は何だ?」

 皆が眉を寄せた。

「………処刑…か?」

 口を利いたのは岩鷲。

「そうだ。 僕達も尸魂界に入ってからどんどん早まっていった朽木さんの処刑の期日… 君も違和感を感じていた筈だ。 だが、それも今の話で全て繋がった。」

 石田は続ける。

「五番隊隊長 藍染惣右介… 彼の目的こそが、朽木さんの殺害なんだ!」

バッ

 双極の丘を見上げる。

――― ルキア ――― …!









「…何?」

 藍染が眉を寄せた。

「…断る… と言ったんです、藍染隊長。」

 ルキアを抱えたまま、恋次が藍染を見据えた。

「…成程。」

 細く笑う藍染の背後で、市丸が斬魄刀に手をかけ…

「いいよ、ギン。」

 それを制した藍染を見て、恋次が唇を噛んだ。

「…に… 何をした…?」

 初めは、藍染が何を抱えているのかわからなかった。

 赤黒く見えたそれは、紛れも無く血。

 藍染の腕の中でぐったりしているのは、間違えなくである。

「…全部、アンタが仕組んでたってわけかよ、藍染隊長…!?」

 恋次のその声は戸惑っていた。

「そうだと言ったらどうするんだい?」

を放しやがれ…!」

 藍染を睨む。

「あんたにルキアは渡せねえ…!」

 グッと、ルキアの肩を強く抱く。

 藍染が小さく息を吐いた。

「君は強情だからね、阿散井くん。 朽木ルキアだけ置いて退がるのが厭だと言うなら仕方無い。 こちらも君の気持ちも汲もう。」

 細い笑みを浮かべて、藍染がゆっくりと斬魄刀を抜いた。

「朽木ルキアは抱えたままで良い。 腕ごと置いて退がりたまえ。」

オアッ

 跳ね上がった霊圧。

 恋次の背に、冷や汗が伝った。


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