ボタ… 「…れ… …恋次…!」 ルキアが眉を寄せた。 ボタ ボタ… 血が滴る。 「…やれやれ…」 ルキアはしっかりと抱えたままだが、恋次の右腕は血塗れだった。 「随分、上手く躱すようになったじゃないか、阿散井くん。 成長したんだね、嬉しいよ。」 恋次を見据えるその目は冷たい。 「だけど、できれば余り粘ってほしくはないな。 潰さないように蟻を踏むのは、力加減が難しいんだ。 僕も君の上官として君を死なせるのは忍びない。」 「 ――― …」 恋次が眉を寄せた。 「…恋次…!」 「黙ってろ… ルキア。」 何か言いかけたルキアの声を遮る。 「何が… 『元上官として死なせるのは忍びない』だ… だったら何で、雛森は殺した…!」 藍染は細く笑った。 「雛森くんのことは仕方無かった。 彼女は僕無しでは生きられない。 そう言う風に仕込んだ。 殺して行くのは情けだと思わないか。」 恋次は耳を疑った。 「…しかし、彼女を手にかけたくなかったのも事実だよ。 だから少し手間をかけて、吉良くんや日番谷くんと殺し合って貰おうと思ったんだが、中々上手くいかなくてね。」 藍染はじっと恋次を見据えた。 「だから仕方無く、僕が殺したんだ。」 恋次の声が震えた。 「そうかよ… 吉良も… 雛森も… あんたの掌で転がされてただけだってワケかよ…」 「君もだ、阿散井くん。」 恋次が藍染を睨み据える。 「…良く解ったぜ。 あんたはもう、俺の知ってる藍染隊長じゃ無えって事がな。」 続けた。 「どんな理由があるか知らねえが、死んでもあんたにルキアは渡さねえ。」 藍染がわずかに首を竦めた。 「もう自分の知る藍染惣右介ではないか。 残念だがそれは錯覚だよ、阿散井くん。」 藍染の声は信じられないほどに冷たくて… 「君の知る藍染惣右介など、最初から何処にも居はしない。」 ダン 飛び掛った。 「吼えろ、蛇尾丸!!!!」 ジャゴァァアア 藍染に向かって、恋次の斬魄刀が伸びる。 「始解か。 その痛みきった体では始解が精々だろうが… わかっている筈だよ。」 ガン 恋次の斬魄刀を受けて、藍染が続ける。 「始解じゃ、時間稼ぎにもならないってことぐらいはね。」 あっさりと受け止められて、恋次が舌打ちをする。 白哉と戦った時の傷は、まだ癒えていない。 だが… 「くッ、わかんねえさ!!!」 蛇尾丸を振り上げる。 藍染が小さく息を吐いた。 「困った子だ。」 ドン ゴシャア 軽く首を竦めて、恋次の斬魄刀を素手で受け止める。 (素手で ―――!!) 恋次は眼を疑った。 「やはり、あの三人の中で、君が一番厄介だよ、阿散井くん。」 ザン そのまま斬魄刀を砕く。 「確信だ。」 ドッ 血が溢れた。 その場に膝を付いて、それでもルキアは放さない。 「君達三人に初めて会った時、僕は君達が「使える」と確信した。」 恋次を見据えたまま、淡々とした口調で藍染は続ける。 「だから君達が護廷十三隊に入った時、すぐに三人共五番隊に入隊させた。」 恋次と雛森、吉良の事である。 「そしてより役に立ちそうな二人を僕とギンの部下にした。 一番厄介そうな君は、早々に他隊(よそ)に飛ばした。」 ザ… 藍染がゆっくり、恋次へ近付いた。 「どうやら僕の勘は正しかったらしい。」 恋次を見下ろす藍染の目は冷たい。 「最後だ。 朽木ルキアを置いて、退がりたまえ。」 背筋が凍りつくような気持ちだ。 「ま… 待って下さい、藍染隊長。 私が…」 「…断る。」 ルキアの声を、一言で遮る。 「! 恋次っ…」 ルキアが眉を寄せた。 「黙ってろって言った筈だぜ… ルキア…」 グッと、強くルキアの肩を抱く。 「…放さねえぞ…」 ずっと、その手を放してしまった事を悔いていたのだ。 そのために、月にだって吼えた。 あんな悔しい思いは二度とごめんだ。 藍染を睨み上げて、恋次は細く笑った。 「…誰が放すかよ… バカ野郎が…!」 藍染が細く笑った。 「そうか。 残念だ。」 恋次めがけて、斬魄刀を振り下ろ… ガッ 誰かが藍染の斬魄刀を受け止めた。 黒い刃の斬魄刀。 バサァッ 翻る、死覇装の裾。 「…よォ。」 目に映るのは、オレンジ色の髪。 「どうしたよ、しゃがみ込んで。 ずいぶんルキア重そうじゃねえか。」 黒崎一護だ。 「手伝いに来てやったぜ、恋次!」 一護の登場にも少しも動じた様子はない。 「すんません。 手ェ出したらあかん思て、あの子が横通るん無視しました。」 市丸が首を竦める。 「ああ、いいよ。」 藍染は不敵に笑った。 「払う埃が一つでも二つでも、目に見える程の違いは無い。」 |