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 藍染は続けた。

「死神の虚化、虚の死神化。 相反する二つの存在の境界を取り払うことで、その存在は更なる高みへと上り詰める。」

 穏やかでいられないの心境も知らずに。

「僕自身は特に虚の死神化に着目し、幾つかの死神に近い存在の虚を送り出すことに成功した。」

(まさか…!)

 が息を飲んだ。

「自らの霊圧を消すことのできる虚。」

 西の外れで、十番隊がそれに襲われたのは記憶に新しい。

 藍染は細い笑みすら浮かべている。

「触れるだけで斬魄刀を消すことができ、死神と融合する能力を持つ虚。」

 ルキアは耳を疑った。

 ルキアの記憶を垣間見たも、一瞬呼吸を忘れた。

(…海燕… ――― !)

 海燕は、藍染が作り出した虚に殺された。

 ショックを隠せない。

「どれも新たな存在と呼ぶには程遠い屑ばかり。 僕以外の者も皆、無知を倫理に妨げられて、結局その方法を見つけられる者は誰一人としていなかった。」

 藍染は一度、を見た。

 だが、すぐに一護へと視線を戻す。

「それを作り出したのが…」

(…浦…原、喜助………)



ドクン ―――



 が眉を寄せた。

 胸が熱いのは… きっと傷のせいではない。

「彼が作り出したのは、瞬時に虚と死神の境界線を取り払うことができる、尸魂界の常識を超えた物質だった。 物質の名は…」



ドクン ―――



(崩…玉………)



「危険な物質だ。 彼もそう感じたんだろう。 『崩玉』の破壊を試みた。」

 だが、出来なかったのだろう。

 が眉を寄せた。

『…すみません……… 愛しているんですよ… だから…』

 の為に、自らの危険も顧みず。

 の為に、全てを巻き込んで。

 浦原は、他の全てを犠牲にしてでも、を救いたかったのだ。

 キツク、唇を噛む。

 藍染はまだ話を続けているが、その声はほとんど聞こえていなかった。

『今、丁度義骸が出来た所なんスよ♪ 入ってみます?』

 不安に自分を見上げるに、浦原は優しく微笑んだ。

『あとは… 『崩玉』っすね… 待ってて下さい…』

 いつものように笑っていたから、大丈夫だと、どこかで自分に言い聞かせていた。

 それなのに。

 何故、こんな事になったのだろう…

 浦原喜助は追放され。

 四楓院夜一も、尸魂界より姿を消した。

 志波海燕は、藍染が作り出した虚によって、その命を落とした。

「………っ…!」

 悔しかった。

 護ると決めたものは… 何一つ護れなかった。



ドクン ―――



「彼はかつて、霊子を含まない霊子体を自ら開発し、それを使って捕捉不可能な義骸を造ったことで、尸魂界を追放されている。」

 藍染の声。

 不快だ。

「追放に至った理由はもう一つある。」

チリッ

 震える空気。

 藍染は目を細めた。

「その義骸が、入った死神の霊力を分解し続けるからだ。」

 その科白が不快だ。

「そのため中に入った死神は、霊力がいつまでも回復せず、義骸との連絡は鈍くなり、そして。」

 ルキアは目を見張った。

 義骸に入り、現世で生活をしていた二月の間。

 自分の身に感じていた、全ての疑問点が、それに当てはまった。

「やがて、その魂魄は霊力を完全に失い ――――― 」

 藍染がじっと、を見据えた。

「死神から、ただの人間の魂魄へと成り下がる。」



ドクン ―――



 やけに大きく耳に届く鼓動が不快だ。

 雛森も日番谷も… 恋次も…

 ルキアも一護も…

(皆… 私の為の犠牲者だと言うのか…)

 強く、唇を噛む。

 心が痛い。

 粉々に砕かれたように、心が痛い。

(私さえ… 私さえいなければ…!!)

 はキツク目を閉じた。



ドクン ―――


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