2


「きゃぁっ…!」

 爆風に小さな体が飛ばされた。

『…護神刀はどこだ?』

 そう言う声は冷たい。

「護神刀…?」

 が眉を寄せた。

 一体、何故虚が護神刀を…

「!」

 目の前に振りかざされた刀。

「くっ…!」

 間一髪でそれを交わすが、交わし切れなかったのだろう。

 刃が頬を掠めた。

「…」

 が眉を寄せる。

 死神を斬れるのは、斬魄刀だけである。

(虚が、斬魄刀を…? いや、それよりも…)

「お前…! 女子の顔を傷付けるとは何事だ!?」

 が怒声を投げる。

 それは一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに細く笑った。

『威勢がいいな、小娘。 それで、どうする?』

「許さぬ!」

 言うや否や、飛び掛る。

ガッ

 の蹴りを受けた腕が僅かに痺れた。

『………』

 小さな体から繰り出さるは体術。

 破面が眉を寄せる。

ガシィッ

 の腕を掴んだ。

『…霊力を持たない防人一族がいると聞いた事がある。』

「…!」

 が息を飲んだ。

『貴様か、小娘…!』

 急激に破面の霊圧が上がった。

 が地を蹴った。

 自分の腕を掴むその手を蹴り付けて、一目散に駆ける。

ゴアッ

 一筋の光が、に伸びた。

(虚閃…!)

「きゃぁっ…!!」

 何とか交わすが、その霊圧に体を裂かれた。

ドシャァ

 地面に強く体を打ち付けて、が身を捩った。

 血が滲む。

「…っつ…!」

 奥歯を食い縛った。

 死にたくない。

 死ぬ訳には行かない。

 白哉と、結婚するのだ。

 こんな所で、死んでなどいられない。

『どうした? 許さないのではなかったか?』

 を見下す目は冷たい。

「………!」

 は唇を噛んだ。

 思い切りそれを睨みつける。

『………気に入らないな。』

 破面が眉を寄せた。

ドッ

 斬魄刀を、突き刺す。

「っうわぁぁああぁああああ!!!」

 左腕に走る痛みに、が悲鳴を上げた。

『貴様を殺すのは簡単だ。 楽に死にたいなら、護神刀のありかを吐け。』

「破道の六十三・雷吼炮!!」

 突然の第三者の声。

 破面は別段慌てた様子もなく、その場から離れる。

 と一番年が近い腹違いの兄だった。

「…螢(ケイ)… 兄様…」

 一族の中で、それでもに声をかけてくれたのは、この兄だけだった。

!」

 螢がを抱き起こした。

「まだ動けるか? 早く逃げろ!!」

 と、その背を押す。

「っ、螢兄様…!」

「俺に構うな! 行け!!」

 は唇を噛んで駆け出した。

(何故…! どうして…?)

 自らの危険も顧みず、を助けてくれたのだろうか?

 防人の里を覆い隠すように広がる森。

 その中をただ必死に駆けた。

 これほど必死に駆けたのは、母に殺されそうになった時以来かもしれない。

(…?… そう言えば…)

 いつだったか。

 森の中の湖で、小さな社を見つけた。

 その中に、一振りの刀が祭られていた。

 その美しい刀身に魅入られ手を伸ばそうとして、女性に窘められた。

『…この刀は、何人たりとも触れる事は叶わぬ。 幼いその手を、血に染めてはならぬ。』

 その女性に見覚えなどない。

 だけど、その声は優しかった。

『…どうしても力が必要になった時、そなたがわらわの力を求めるのならば、その時に再び参るがよい… わらわの名は…』

 は足を止めた。

 目の前に、湖が広がっている。

 その中心には、あの日に見た社と… 一振りの刀。

バシャ…

 湖に一歩、足を踏み入れた。

ブワァ…

 禍々しい霊圧が辺りに満ちた。

 何故だろう。

 魂を絡め取られそうな、そんな気がして全身から刺す様な汗が吹き出た。

「…お前が… 尸魂界を護る護神刀か…?」

 古より、尸魂界を護る任務を背負った防人一族。

 その使命は、護神刀の封印と、それを護る事。

 傷付いた重い体を引き摺るように、はそれに近付いた。

 一族に伝わる話によると、刀自体が結界を張っている為、誰一人それに近付く事すら出来ないらしい。

「…神を護る刀、か…」

 が呟いた。

 小さな社の中。

 幾重にも鎖に巻かれた刀は、あの日見たままの姿。

 は目を細めた。

「今… 防人の里が襲われている…」

 そっと、それに手を伸ばした。

「…私は、… 力を貸せ、『姫椿』…」


back