そっと、その柄に触れた。 その瞬間、辺りに満ちていた禍々しい霊圧が消えた。 大人しくその手に納まったと言う事は、姫椿はを使い手として認めたのだろうか? 『ガァッ!』 一体の虚がに向かって来る。 ぎゅっと、その柄を握った。 「…行くぞ、『姫椿』…!」 が構え… ガッ 「!?」 は目を疑った。 斬魄刀が、抜けない。 深く地に刺さっている訳でもないのに、抜けないのだ。 「力を貸せ、『姫椿』! お前を護って来た一族を護れ!!」 が叫ぶが、斬魄刀は一向に抜ける気配はない。 「…お前も… 霊力を持たぬと、私を蔑むか…!」 は息を飲んだ。 大きな口を開けて、虚が目の前に迫っていた。 ガッ 左腕を差し出すことで、体が喰われるのを防いだ。 「…くっ…!」 ボタッ 血が滴る。 は唇を噛んだ。 こんな虚、まるで雑魚ではないか。 この虚を倒すことも、霊力のない自分には出来ないのだろうか? 霊力がないから、斬魄刀も答えないのだろうか? ギリッ 「…っ、あっ…!」 痛みに顔を歪める。 ぐっと、強く斬魄刀の柄を握った。 神を護る刀。 一族ではそう伝えられているが、はそうは思わない。 「…お前は、ただの斬魄刀だ…!」 一振りの、斬魄刀。 それが神を護るなど、おとぎ話でしかないとそう思っている。 「選べ、刀よ… 虚にその美しい刀身を砕かれるか… 私と共に戦うか…」 腕が喰い千切られそうだ。 刀は答えない。 が唇を噛んだ。 「ただの刀が神など護るな! 生きてる者を護れ…!!」 霊力と言うものは、命の危険に晒された時に最も上がり易い。 誰かがそんな事を言っていた。 ドウ 風が起こった。 その風に、虚が舞い上がる。 風の中心には、護神刀・姫椿を片手にが立っている。 「…そうだ、それでいい。」 じっと、虚を睨み据える。 何故だろう、手に馴染むような感覚。 ザッ 斬魄刀を薙ぎ払った。 ザン その剣圧で、虚が真っ二つに裂けた。 『…それが護神刀か…』 冷たい声に振り返る。 先程の破面だ。 『…こいつと交換しないか?』 その声に、が目を見張る。 「…螢兄様…!」 血塗れの兄。 破面は襟首を摘んで、その体を持ち上げている。 「兄様…!」 が唇を噛んだ。 破面は笑った。 『ほら、受け取れ。』 兄の体を、まるで物でも投げるように投げ捨てる。 「…!」 は駆け出した。 宙高く放り投げられた兄の体、それをどうにか受け止めようと… 「!」 呼吸が止まった。 ザン 目の前で、兄の体が斬られた。 兄の影に身を潜めたのだろう。 驚くを見て、破面は笑った。 ゆっくりと、血を撒き散らしながら兄の体が地に落ちて行く。 まるで映画の一面のようにゆっくりと流れるように動くのに、一歩も動けなかった。 力を失い、重力に従って兄の体が地に叩き付けられた。 「に、兄様………」 の声が上擦った。 そのままをも斬ろうと言うのだろう。 破面の斬魄刀が煌いた。 ドクン ――― 何かが、脈打った。 「うわぁああぁあああああ!!」 一気に、頭に血が上った。 わざわざ、自分の目の前で斬り捨てる為に、ぼろぼろになった兄を引き摺ってを追って来たと言うのだろうか。 ド 斬魄刀を、突き刺す。 鮮やかな朱が散った。 |