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ボタ ―――

 の呼吸が止まった。

 突き刺した斬魄刀。

 その刀身を伝って、鮮やかな紅い華が散る。

 の小さな手も、血塗れだった。

「な、っ…」

 声が出ない。

 何故、こんな所にいるのだろう。

「白…っ…!」

 そこにいるのは…

「…白、哉…っ!」

 を護るかのように庇った為、が突き刺した斬魄刀がその腹を貫いている。

ガギッ

 破面の斬魄刀を弾いたのは、白哉と同時に駆けつけたのだろう、夜一だった。

「あまり図に乗るでないぞ、破面が…!」

 夜一が鬼道で破面を吹っ飛ばした。

 から、そして白哉から遠ざける。

「白哉ぁ…っ…!」

 今にも泣き出しそうなの声。

 白哉が眉を寄せた。

 状況を把握し切れていないのだろう。

 白哉を見上げるだけで、は一歩も動けなかった。

ガッ

 自分の腹を貫いている、刀身を握る。

「…その、手を放せ、… この刀は… ならぬ………」

 防人の護る護神刀。

 その言い伝えは、四大貴族の間でも語り継がれている。

「白哉…ぁ…!!」

 は力なく首を振って、白哉の腹から斬魄刀を引き抜こうとするが、白哉がそれを許さない。

 泣き出しそうな少女の髪を、優しく撫でる。

「…遅くなって、済まなかった… 怪我を、させたな…」

 血塗れのを見て、白哉が眉を寄せた。

 優しい声が、の胸に刺さる。

ドッ

 白哉がその場に膝を折った。

「白哉…っ!」

 慌ててその体を支えるが、小さな少女に白哉は支えきれずその場に座り込んだ。

 刀の柄から手を放し、ぎゅっと、白哉を抱き締める。

チリッ

 空気が震えた。

 何故、こんな事になったのだろう。

 兄が斬られて頭に血が上り、破面を殺そうと斬魄刀を突き刺したら… それを白哉が阻んだ。

「何故… どうして…!? 何故、止めた、白哉…!」

 が唇を噛んだ。

ボタボタ

 血を滴らせながら、白哉がそっとの髪を撫でる。

「…お前のその手を… 血に汚したくなかったのだ………」

 その声に、胸が締め付けられる。

「…バカ者…!」

 辺りに大虚や虚が集まって来た。

チリチリ…

 震える霊圧に引き寄せられたのだろう。

 は唇を噛んだ。

 防人一族が… 兄が… そして白哉が…

 何故、壊れようとしているのだろう。

 壊したのは…





私… ―――――





 怒り、憎しみ、哀しみ、戸惑い…

 あらゆる負の感情が、の胸中に渦を巻く。

ポタ ―――

 少女の頬に、一粒の冷たい雫が落ちた。

 雨だ。

サァァァアアア

 降り出した雨が、血塗れの防人の里を洗い流し…

 と白哉の体温を奪って行く。

チリッ…

 大虚や破面よりも… 己が許せなかった。

 己が弱いから、兄が… 白哉が、血に濡れた。

 大切な者を傷付けたのは、他の誰でもなく己自信である。



ドクン ―――



「うわぁぁあああああ!!!」

 悲痛な叫びの直後。

ドン

 風が巻き起こった。


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