「喜助………」 が唇を噛んだ。 「助けてくれ、喜助…! 白哉が…!!」 力の限り、叫んだ。 「当たり前じゃないですか、さん…」 浦原が目を細めた。 「そっち、行きますよ…」 一歩、に近付いた。 ゴォオ 風が、浦原を拒む。 吹き飛ばされそうになるのを、必死に堪えた。 「さん♥ お土産話がたくさんあるんすよ。 そーですねぇ、何から話しましょうか…」 一歩、また一歩と、踏み締めるように踏み出す。 「とりあえず… この風を止めて貰えませんか? これじゃ近付けない…」 が首を振る。 「…止められないんだ… 私には出来ない…」 「出来ますよ、さん。 気持ちを鎮めて下さい…」 仮面が形成されて行く状態で、の意識があると言う事は、抵抗していると言うことである。 まだ、完全に覚醒している訳ではない。 (まだ… 戻れますね…) 浦原が続ける。 「さん、それ… 防人の護神刀っスよねぇ?」 浦原の声に、少女が頷く。 「すごいじゃぁないですか。 それを手に出来た人がいたなんて、聞いた事ありませんよ。」 バチィッ 浦原に向かって伸びた何かが、その体を切り裂く。 鮮やかな血を撒き散らしながら、浦原が片膝を付いた。 「喜助!」 が眉を寄せた。 「やめろ! 喜助に手を出すな!!」 悲鳴のような声で叫ぶ。 浦原はゆっくり息を吐いた。 「…邪魔をするな…」 冷たい声に、が息を飲む。 「お前に、さんをくれてやるつもりなんて俺にはない。 殺されたくなかったら、大人しく消えろ。」 バチッ バチバチ… 霊圧が飛ぶ。 避けることは出来ただろう。 しかしそうせずに、手や足などに傷を負った。 「喜助…! っ、やめろっ!!」 が唇を噛む。 「何故避けない、喜助…!!」 浦原は口元だけで細く笑った。 「さん… 負けちゃァいけませんよ。 思い出して下さい…」 バッ 朱が散った。 飛んでくる霊圧に体を刻まれて… それでも、浦原は己の斬魄刀には触れなかった。 「思い出して下さい、さん… アナタは、どうして… 力が欲しかったんですか?」 ボタっ 血が滴り落ちた。 「力…」 大虚や虚たちを相手に、隊長格が戦っている。 それなのに、と浦原の周りはとても静かだった。 「内なる己に喰われない為には… 何故刀を振るうのか… 心の強くある様を見せないといけないんですよ…」 ゴォッ の力は、容赦なく浦原を襲った。 「喜助…!!」 が眉を寄せた。 浦原は血塗れだった。 いつもはどうあっても、傷一つ負わせる事が出来ないのに… そして、浦原を血塗れにさせたのも自分で… きつく唇を噛む。 「もういい… もういい、喜助! 紅姫を抜け!!」 が続ける。 「…私を殺せ…っ…!!!」 ぎゅっと… 白哉を抱き締めるは、わずかに震えていた。 浦原が目を細めた。 「何もよくないですよ、さん… アナタが諦めてどうするんですか。」 浦原は体を引き摺るように、へ近付く。 ボタ 血が滴り落ちた。 「思い出して下さい、さん… 何故、アナタは強い力が欲しかったんですか? 全てを、破壊する為ですか?」 ピク が眉を寄せた。 「わ、私は… 護りたかったんだ…」 「何を?」 浦原の声に、黒曜石の瞳が揺らぐ。 「…皆を… 大好きな人たちを… 護りたかったんだ…」 「…誰をです?」 まっすぐに見据えられて… 呼吸をする事すら苦しかった。 この感情は何だろう? ゴォッ 炎が舞い上がった。 暴走を続ける霊圧が、全てを焼き払おうとしているのだろうか? 雨が降っているにもかかわらず、炎は勢いを増して行く。 地獄の黒い炎… それが、少女自身をも包む。 グッ 「!」 突然、強く抱き締められ、が目を丸くした。 「…白哉………」 ボタボタ… 血が滴る。 「…気を、確かに持て、…」 は首を振った。 「動けるなら… 行ってくれ、白哉…! お前を…! 巻き込みたくない……!!」 雨の降る中、地獄の炎に身を焼かれている。 その炎を巻き起こしたのも、己が力を制御できぬがためで… 「殺せ…」 が唇を噛んだ。 「私を殺せ…!!!」 白哉が眉を寄せた。 「…恐れるな………」 まだ、止められる。 否、止めてみせる。 白哉が強くを抱き締めた。 「…お前は… 私が護る………」 が唇を噛んだ。 今、諦めれば全てが終わるだろう。 この炎に身を焼かれて死ねば、もう何も傷付けずに済むだろう。 内なる声の主も消えるだろう。 だが、白哉が共にいる。 自分が諦めれば、白哉も死んでしまう。 「いや…だ………」 少女の声が震えていた。 「誰も…誰も傷付けたくないんだ………」 ぎゅっと、白哉を抱き締めた。 「私は…皆を…」 炎に焼かれているのに、その熱さも感じられなかった。 「私は…白哉を護りたい…!」 ドクン ――― 何かが脈打った。 「うわぁああああ!!!」 辺りが光に包まれ、風が吹き荒れた。 次に、浦原が見たのは。 血塗れのを抱きかかえる、同じくらい血に濡れた白哉と。 地に転がった、防人の斬魄刀。 そして… ガシャン… 少女の掌を滑り抜けて地に落ちたそれは、防人一族の護身刀とは別の、一振りの斬魄刀だった。 |