幾年も、水晶の中の封印された少女を、ただ見上げていた。 もしも… 再び 触れることが叶うのならば… ――― (私は…) ザ が目を見張った。 「…白哉…」 白哉が一歩、少女に向かって足を進めた。 「…来るな、白哉…!」 が眉を寄せる。 深い傷を負っている白哉に、が巻き起こしている霊圧に耐える力はない。 「やめろ!」 ゴォオ 風が吹き荒れる。 二百年前に浦原を拒んだと同じように、容赦なく白哉を襲った。 ザッ その腕が裂けた。 「止めろ、白哉… もういい…!」 の声は震えていた。 「姫椿を解放したと同時に、こうなる事は覚悟していた…! 下がれ! お前の身が持たない!」 白哉は何も言わず、それでもゆっくりとに近付く。 吹き荒れる風に阻まれて、その霊圧に意識を絡め取られそうになって… それでも、に近付いた。 二百年前のあの日。 同じように風の吹き荒れる中。 自分を抱き締める少女の腕は、震えていた。 確かに、震えていたんだ。 『貴方に、さんに駆け寄る権利なんてないんですよ。』 (その通りだ、浦原… 私に、に駆け寄る権利などない………) 唇を噛む。 (だが………) 『…』 あの日も、同じように、水晶の中のを見上げていた。 パキ。 『!』 パキパキ… 何故だろう。 突然、少女を封印している水晶にひびが入った。 パキィ… 水晶が砕けた。 その破片と共に、少女の身体が宙に投げ出される。 触れるは罪。 承知の上だったが、黙って見ているなんて出来なかった。 その腕に、しっかりと。 愛しい少女を抱き締める。 何故、水晶が砕け封印が解けたのか。 そんな事はどうでもよかった。 腕の中の温もりだけが、変わらない真実。 「白哉…!」 悲鳴に似た、の声。 その声に胸が痛んだが、ここで諦める訳には行かなかった。 ずっと… ずっと 悔いていたのだ。 バッ 風に裂かれた。 少女の黒曜石の瞳に、紅が鮮やかに映る。 砕けた牽星箝が音を立てて地に落ちた。 手を伸ばした。 ガッ 小さな手に握られた斬魄刀の刃を握って、を見据える。 バチバチィッ 斬魄刀は白哉を拒んで、その手を裂いた。 「白哉ぁ…!」 悲痛な叫び。 「………」 白哉は眉を寄せた。 風も、その禍々しい霊圧も… 阻む全てに逆らって、少女を抱き締めた。 は、身を捩った。 「離せ、白哉…! お前まで巻き込まれて…!」 「かまわぬ…」 その声に、唇を噛む。 「もしものことがあれば、私を斬ってくれると… そう言ったではないか!」 「…っ…」 の声に、白哉が眉を寄せた。 『答えろよ。 あんた、処刑されるのがだったら… それでも、掟だからって殺すのか?』 『そうだ。』 黒崎一護に敗れた時、そう答えた。 まるで… 懺悔のようだと思った。 あの時。 ――― あと一歩で間に合わなかった事を、ずっと悔いていたのだ。 「…何故… 私が……… お前を斬れる………!」 幾年も、水晶の中の封印された少女を、ただ見上げていた。 見上げる事しか出来なかった。 ぎゅ…っと、強く… 強く抱き締める。 「もしも… 再び触れる事が叶うのならば… その時は…」 砕けた水晶の欠片の中、同じように少女を抱き締めた。 その時、己の心に一つの誓いを立てた。 他の誰に何と言われても構わない。 己の魂に誓った。 「…二度と離さぬ、と… そう …決めたのだ………」 トクン ――― (私は…) ポロ…っと、一粒の涙が零れた。 (私は………!) ぎゅっと白哉の裾を、強く掴む。 『…アナタの望むままに… 本当の"願い"を偽る必要なんて… どこにもないんスよ…』 何故、こう言う時に思い出すのは浦原の声なのだろう。 (喜助… 私は……… !!) !! 辺りが眩い光に包まれた。 「や…!」 息を飲んだ。 いくら身を捩っても、白哉はを離さない。 「いやぁぁあああ…!!!」 バチィッ 何かが、光を阻んだ。 驚いて目を開ける。 その黒曜石の瞳に映るのは… 「…月華………」 そして。 「…姫、椿………」 と白哉を護るように、二振りの斬魄刀が交差するように、十字に並んでいた。 ビキ… 封印の呪(じゅ)を弾いた、二つの斬魄刀。 ビキビキ… その刀身に、ひびが入った。 カシャ、ン… 何故だろう。 月華と姫椿… 二人が微笑んだように見えた。 |