パラパラパラ… 崩れる岩を見て、小さな溜息が聞こえた。 『…〜、何か迷ってない?』 この場に不釣合いな、少女の声である。 「迷い?」 が目をぱちくりさせる。 「どう言う意味だ、月華?」 月華と呼ばれた少女が首を竦める。 『言葉の通り。 鬼道を使う時に迷いがある。 だから、今一威力がない。』 が眉を寄せた。 「威力…? 十分だろう、岩山が吹っ飛んだぞ?」 『もっと強力なのが打てるって。 自分の霊圧がどれだけ大きいか、わかってないんでしょ。』 月華が唇を尖らせた。 『アタシ交代〜。 後は、姫椿に任せるよん♪』 そう言い終えて、月華は戻った。 月華は、の力が生み出した斬魄刀。 尸魂界全土に満ちる霊圧の起源である。 『…月華め… 何が任せるだ…』 月華と入れ替わるように、その場に現れたのは一人の女性。 の体に、わずかに緊張が走った。 『行くぞ、。 構えろ…』 「…手柔らかに頼むぞ、姫椿…」 姫椿が目を細めた。 『封印主一族が甘えた事を申すな…』 ザッ 空気が震えた。 姫椿は、防人一族が護る護神刀。 擁する能力は、"解放"と"封印"。 すなわち、解封である。 ガン 向かって来た霊気の風を交わして、が姫椿を見据えた。 飛び掛る。 ガッ その一撃を弾いた。 『…瞬閧か。 白打と鬼道を練り合わせた戦闘術… この短期間に習得したのは褒めてつかわそう…』 姫椿は冷静にの力を分析していた。 防人一族の最後の一人であるに課せられた試練は、姫椿を完全に扱えるようになる事。 『わらわに、そなたの強さを示してみよ。』 姫椿は月華と違い、手加減がなかった。 『わらわの封印を解いたのはそなただ。 即ち、今のわらわの力は、そなたの持つ力… 己の力も扱えぬか…』 ガッ の攻撃は、姫椿の霊圧に阻まれて届かない。 姫椿が息を吐いた。 『…何かを傷付けるのを恐れるか… そんな甘い考えを持つ者に、わらわを使いこなす事などできぬ…!』 ドン 「!」 は息を飲んだ。 「きゃぁっ…!」 その霊圧に弾かれた。 身を反転させ、斬魄刀・月華を片手に飛び掛る。 「輝け、月華!!」 バチッ の斬撃は、姫椿の霊圧に阻まれ届かない。 が眉を寄せた。 「ずるいぞ、姫椿! お前のその霊力は反則だ!」 突然の抗議に、姫椿が小さく溜息を吐いた。 『…申した筈じゃ。 わらわの力は、そなたの力… そなたが己の力の巨大さを知らぬだけよ。』 己の力… グッと、月華を強く握る。 己の内に住まう、破壊を望むもう一人の自分。 それが放つ霊圧は、とてつもなく巨大だった。 「…!」 霊圧がかまいたちのように飛んで来た。 間一髪でそれを交わして、が声を上げる。 「危ないではないか!」 『…修行中に気を抜く方が悪い。』 姫椿が真っ直ぐにを見据える。 『…あの時は、そなたの心が強く願ったがために力を貸した。 だが、いつまでも甘い考えを捨てずにいれば… 必ずや大切な者を失うであろう…』 が眉を寄せる。 『…心弱き者よ… そなたには、何一つ護る事など出来ぬ…』 「!」 が唇を噛んだ。 「私は護る!! そう決めたのだ!」 構えた。 オ ア ッ その霊圧を解放する。 「卍解! 星彩月華…!」 『…この程度で熱くなりおって… 愚か者…!』 ザン 「きゃぁっ!」 見えない刃がを襲う。 突然の攻撃に当てられて、小さな体は意識を失って崩れた。 その傍らに膝を付いて、姫椿がそっとの頬を撫でた。 『もぉ〜… 乱暴だよ、姫椿ぃ〜…』 月華が頬を膨らませる。 『…時が迫っておるのだ。 尸魂界は… きっとを見捨てるだろう…』 姫椿の声に、月華の瞳が揺らぐ。 『…どう言う… 意味?』 『言葉の通りだ。』 じっと、姫椿がを見据えた。 『…この心優しき者に、防人の血… 深血は重い…』 |