「…と、言う具合だ。 私は変わらず過ごしている。」 『こっちも変わらずやってますよぉ〜。 ただ、さんに会えないのは淋しいっすけどねぇ…』 どこからか聞こえる声。 は笑った。 「ありがとう、喜助。 その言葉だけで十分だ。」 の前には、一羽の白い蝶。 ヒラヒラを宙を舞うそれから、声は聞こえる。 「しかし… こんな物を作っている時間があるなら、何か別の物を造ればよいだろう?」 は少し困ったように首を竦めた。 白い蝶は、浦原の開発した電信機である。 互いの音声のみを届けるのだ。 『イヤっスよ… アタシの優先順位はさんですから。 あ、今色々造ってますから。 今度、局の方に遊びに来て下さいね♡』 「わかった。 何か茶請けの用意をしておけよ。」 『はい♡ では、また♡』 浦原の言葉が終わるや否や。 フッと、白い蝶はその姿を紙に変えた。 は細く笑った。 「霊力を込めれば蝶に姿を変え電信機になるか… 実に面白い道具だ。」 修行を始めて、長い時を孤独に過ごしていた。 それでもこうして頑張れるのは。 浦原がくれたこの道具のおかげだろう。 「ふわぁ…」 小さく欠伸をした。 「ダメだ… 少し眠る。 おやすみ…」 そっと、斬魄刀の鞘に触れた。 修行は優しい物ではなかった。 だけど、中途半端に投げ出して、逃げ帰る事は出来ない。 一度やると、決めたから。 「…?」 少女が目を細めた。 誰かが、手を振っている。 「!」 「さーん♡」 笑顔が零れた。 「夜一! 喜助!!」 久方ぶりに見る、友人の姿。 駆け出そうとしたの脇から、何かが飛び出した。 それは斬魄刀を片手に、の目の前で二人に襲い掛かった。 虚を付かれ驚いたのか、二人はそのまま斬られた。 頭に血が上った。 「待て、何奴!?」 その影を追いかけて、斬魄刀を振り下ろす。 ガギィッ 「!?」 目を疑った。 の斬魄刀を受けたそれは。 (私…?) それは、を見てにやりと笑った。 ガッ の斬魄刀を受けていた刀を砕いた。 ザン 朱が散る。 は言葉を飲み込んだ。 今、自分が斬ったのは… 「白哉…!!」 飛び起きた。 心臓が激しく鼓動している。 「夢… か…?」 ぎゅっと、強く拳を握った。 「私が… 私が全てを壊すと言うのか………」 『内なる己に打ち勝つ事が出来ねば、そうなるであろう…』 その声に、が視線を移す。 「姫椿…」 真紅の瞳が、まっすぐにを見据える。 『そうさせぬ為に、そなたは強くならねばならぬ… 時間がないのだ。』 は頷いた。 「わかった… 続けよう…」 それ以来、度々夢を見るようになったが、は修行に打ち込んでいた。 剣を握れば、夢の事は忘れる。 鬼道を学ぶのは、思っていたより楽しかった。 確実に、力を付けて行った。 修行の最終目的は、護神刀・姫椿の解放と封印。 「…封印とは、どう言う意味なのだ?」 の声に、姫椿はわずかに目を伏せた。 『…わらわはあの場所で、尸魂界自体を封印していたのだ。』 巨大な霊力を持っている姫椿。 『わらわの持つ全ての力で、尸魂界自体に封印をかける。 それで、外部の敵から尸魂界を護っていた。』 が目を細めた。 「…尸魂界を護るとはそう言った意味か… "封印"の能力はわかった。 では、"解放"とは?」 『封印と解放は同じだ。 内に使うか、外に使うかだけの違い… ただ…』 姫椿が続けた。 『…怒りや憎しみ、哀しみ、戸惑いなどの感情に激しく反応する。 全てを破壊するまで、解放された力は止まらぬ…』 がわずかに眉を寄せた。 「…あの時は… 止まったではないか。」 『そなたが強く望んだからだ…』 姫椿の声が、静かに響いた。 『斬魄刀は常に、持ち主の心の最も深い部分と繋がっておるのだ。』 が躊躇いがちに口を利いた。 「…お前は、私が望むままに力を貸してくれると言う意味か?」 『そうだ…』 「そうか…」 そっと、が手を差し伸べた。 「よろしくな、姫椿。」 『………』 握手を求めるように差し出された小さな手。 そっと、握り返した。 思っていたより温かくて… 『…こちらこそ、よろしく…』 姫椿はにこりと微笑んだ。 |