尸魂界・最高司法機関、中央四十六室。 返り血を浴びて血塗れで、その上雨に打たれ濡れた格好のままで、はそこに呼び出された。 「………」 わずかに眉を寄せる。 中央四十六室がに説いたのは、実にくだらない事だった。 深血と、その危険性。 「…確かに、私は深血だ。 それが何だ?」 「ただの深血ではない。 防人の護神刀を持つ深血… その存在は非常に危険だ。」 一人の賢者がじっとを見据えた。 「聡明な防人の末裔よ。 解ってくれるな?」 「………」 黒曜石の瞳が揺れた。 「…自害しろ、と… そう言うのか?」 わずかに震えた少女の声。 それに答える声はない。 沈黙。 即ち、肯定である。 「封印主一族・最後の防人一族として、尸魂界を護ると言う使命を全うせよ。」 「 ……… ――――― 」 チリッ 空気が震えた。 霊力がないと、散々に蔑んで来た挙句… 霊力が目覚めた後は、尸魂界を護れと、修行を積ませたくせに… 今更、"死ね"と言うのか。 (同感だ…) (そうだな…) 気のない返事を心の中でする。 苛々を鎮めようと、一度ゆっくり息を吐き出した。 (尸魂界を封印する護神刀…) の胸に、一つの疑問が膨らんだ。 (尸魂界自体を封印する事で、外部の敵から護る…) 姫椿は、にそう教えた。 (ならば、何故防人一族は襲われた? 封印しているのならば、如何なる者も尸魂界に立ち入ることは出来ぬはず…) が目を細めた。 (姫椿… 何を隠している…) 「待たれよ…」 突然の声。 くだらない論争を止めたその声の方に、が視線を移す。 「護神刀の封印は解かれた。 …主を失えばそれこそ、刀の力は暴走するだろう。 そうなれば、誰にも止める事は出来ぬ…」 末席に同席している、一人の老人。 「技術開発局へ依頼して、その霊力を封ずるものを造らせてはどうじゃろう?」 は口元だけで笑った。 「…末席に座り同席していると言うことは… 護廷十三隊の総隊長か?」 長い髯の老人を見据えた。 「いかにも。 護廷十三隊が総隊長・山本元柳斎重国とは儂のこと。」 総隊長を見据えるの目は冷たい。 「知らぬのか? 既に喜助の許へ、中央よりの依頼が届けられている。」 局長である浦原喜助は実に優秀な技術者だが。 その頭脳を持ってしても、の霊力を完全に封じるものを造るまでには至っていない。 醜い ――――― 「…全く… 情けない連中だ…」 嘲るように、は細く笑った。 「私のような小娘に恐れを成すか…」 この世界に、美しいものなんて何一つない ――――― 中央四十六室を見回すその瞳は冷たい。 「四十六室如きが、誰に向かって口を利いている?」 防人に命令できるのは、王族のみである。 「貴様等の指図は受けぬ。 今後… 言葉には気を付けろ。」 踵を返して歩き出した。 凍り付くような霊圧が放たれ、誰一人口を利けない。 ふと。 末席の方へ視線を向けた。 山本総隊長と目が合った。 「…"血は洗い流せる"。 ゆっくり考えるがよい。」 すれ違う間際に聞こえた声は優しく。 の黒曜石の瞳が揺れた。 心に響く声は、日に日に近付いている。 このままでは、内なる己に飲み込まれるだろう。 そうなれば……… 「…っ………」 毎夜の如く見る悪夢が浮かんで、は首を振った。 唇を噛む。 他の誰でもない。 一番不安なのは、自身だ。 |