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「…四大貴族が一・朽木…」

 突然の声。

 中央地下議事堂から出る寸前で、は足を止めた。

 目を丸くして振り返る。

「次期当主… 名を白哉と言ったか…」

「…白哉が、何だ?」

 六人いる内の一人の賢者が、じっとを見据えた。

「…婚約者、だそうだな…」

 一瞬、の呼吸が止まった。

「…それが何だ?」

 黒曜石の瞳が揺れた。

「お前が我々の命に背くのならば、その者を罰するが… それでも構わぬか?」

「なっ…」

 は見張った。

「白哉は関係ない!!」

「それを決めるのは我々だ。」

 そう告げる声は冷たく…

「お前はただ、我々に従えば良い。」

「…っ!」

 は唇を噛んだ。

実に醜い奴等だ… 生かす価値などない、殺せ


(黙れ…)

チリッ チリチリ…

 空気が震える。

 何やら周りを探られているだろうと思ってはいたが。

 こんな形で白哉を人質に捕られるとは、想像も出来なかった。

「…今一度言おう。」

 四十七対の目が、一斉にに向けられる。

 それは憐れみだったり、恐怖ばかりを映して、誰一人自身を見てはいない。

「最後の防人一族として、尸魂界を護ると言う使命を全うせよ…」

 耳に響く言葉。

 背けば、中央四十六室は白哉を罰するだろう。

「………」





醜い… ―――――





 は唇を噛んだ。

 その申し出を、聞き入れるしかない。





この世界には、美しいものなんて何一つない… ―――――





「………一つ、条件がある。」

 悔しくて、声が震えた。

「何だ?」

 は目を伏せた。

「…私を殺せば、この力は暴走する。 そうなれば、尸魂界など… 跡形もなく消えるだろう。」

 静かな地下議事堂。

「『姫椿』に… 私の負の力の全てを"封印"させる。 そして…」

 の声だけが、その場の空気を揺らしていた。

「『月華』を使い、尸魂界に空間隔離を施す。 さすれば、私が生きている限り、尸魂界は護られる。」

 ぎゅっと… 強く拳を握って続けた。

「…二つの斬魄刀を使用した後、私自身を封ずるがいい…」

 わずかに、議事堂内がざわめいた。

「喜助ならば… きっと造れるだろう。 だから、騒ぐな。」

 既に霊力を押さえつける封霊環を造り出している浦原ならば、容易いだろう。

「自ら封印されると申し出るか… それこそ、尸魂界を護る防人一族だ。」

 白々しい声。

殺せ こやつ等が憎いのだろう?


(…殺す価値もない…)





醜い… ―――――





「…して、封霊主よ。 条件とは?」

 黒曜石の瞳が揺れた。

「…封印は… 喜助がそれを完成させた後の… 月の無い晩にしてくれ…」

「了解した。 他に何かあるか?」

 その言葉が完全に発せられるより先に。

バン

!!」

 よく知る声に名を呼ばれた。

 目を丸くして振り返る。

「…夜、一…」

 四楓院夜一だ。

ガッ

 隅に控えていた機動部隊が夜一を取り押さえた。

「放せっ!」

 夜一が身を捩る。

「儂は納得せぬぞ! 理不尽だ! 一人の命を何だと思っておる!!」

ガタッ

「夜一!」

 大きな男達に取り押さえられた夜一の姿に、が眉を寄せた。

チリッ

 空気が震えた。

「夜一に触るな!!」

ドッ

 何が起こったのかわからなかった。

 瞬きをした一瞬の内に、の姿が消えたかと思えば。

 男達の体が宙を舞った。

「…バカ者… この場所には、誰一人立ち入る事は出来ぬと、知っているだろう…」

 夜一の側に膝を付いて、そう告げるの声は優しい。

 ゆっくりと、振り返った。

 じっと…

 賢者を見据えるその黒曜石の瞳は冷たい。

「一つ… 貴様等全員に命令を下そう…」

オ ア

 霊圧を解放する。

「どんな理由があろうと、私の大切な者達に罰を下す事は許さぬ…!」

 重い霊圧に、呼吸をする事が困難だった。

「肝に銘じておけ…!!」

 声を荒げて。

 夜一の手を引いて、は地下議事堂を飛び出した。

 血の上った頭を冷やすかのように、冷たい雨が降っていた。


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