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「雛森ー!」

 元気にドアを開けた。

「あ、ちゃん!」

 雛森が振り返る。

「お、何だ、随分賑やかだな。」

 五番隊舎の一室。

 覗きこむなり、は首を傾げた。

 雛森はもちろん、藍染や日番谷、松本の姿も見える。

「うん、 丁度皆でお茶してたの。 ちゃんもどう?」

 席を勧めながら、雛森がそう言う。

「私はいいよ。 今さっき阿散井と茶をして来たばかりだから。」

 まぁ、が食べた訳ではないが。

、その張羅…」

 日番谷が眉を寄せた。

 はにっと笑う。

「似合うか? 山本に言って、今日貰ったんだ。」

 日番谷や藍染などと同じ、黒衣の死覇装の上に白い隊長衣。

 は得意げにポーズを決めている。

「わぁ〜、かっこいい! ちゃん似合うよ!」

 雛森が手を叩いた。

「零番隊… 本当にこの子、そんな物作っちゃったんですか。」

 松本が日番谷を見やる。

 日番谷は小さく溜息を吐いた。

「隊章は、君がデザインしたのかい?」

 藍染が問う。

「そうだ。 中々良いだろう。」

 十字に重なった、二本の刀。

「何か意味はあるのかい?」

 藍染の問いに、こくんと頷いた。

「これは、実は…」

「やぁ、朽木君。」

 が何か言いかけたと同時に、藍染が声を投げた。

 いつの間に現れたのだろう、朽木白哉が部屋の中… いや、の背後に立っていた。

「ふわぁっ!」

 雛森が小さく悲鳴を上げる。

「白哉。 霊圧を消していきなり現れるな。 皆驚くだろう。」

 が振り返る。

「お前が逃げるからだ。」

 白哉が小さく息を吐いた。

…」

「私は、お前と話をするつもりはない。」

 白哉の声を、が遮る。

 その様子を見ていて、四人は気持ちはらはらしていた。

 朽木白哉と言えば、六番隊隊長であり、四大貴族である朽木家の現当主。

 歴代最強に加えて、冷静で冷淡で命令を忠実にこなす、死神の鑑と讃えられる人物。

 そんな白哉に対して、は何て口を利くのだろう。

(どんな知り合いですかね、隊長?)

(俺が知るかよ。)

 松本の囁きに、日番谷が溜息で答える。

 ただ、二人の間に流れる空気。

 それは、どこか特別なもののような気がした。

「…いい加減にしろ。 私を怒らせたいのか。」

 白哉の霊圧が、少しだけ上がった。

「ほぅ、知らなかったな。 朽木白哉も、怒るという感情を持ち合わせているのか。」

 はそれでも、挑発的な言葉を投げる。

 二人の間に、緊張した空気が流れた。

「ストップ。」

 にこやかに二人の間に割って入ったのは、藍染だった。

「ここで霊圧を上げられては困る。 君の霊圧に当てられて、僕の部下が四番隊へ運ばれる事になるからね。」

 白哉を見てそう言うが、白哉は変わらず無表情だった。

君も。 わざと挑発するような口の利き方は、止めた方がいい。」

 藍染に注意されて、は軽く首を竦めた。

 白哉がの手首を掴んだ。

「来い。」

 突然手を引かれて、は思わず倒れそうになった。

「思い通りに行かないなら、力づく。 その横暴な所はお前の悪いくせだ、白哉。 いつからだ?」

 振り払おうとするが、白哉はの手を放さない。

「放せ! 今更お前と話すことはない! お前なんか大嫌いだ!!」

 が叫んだ。

 白哉が、始めて眉を寄せた。

ツキン

 その目を見て、少し、の胸が痛んだ。

 一瞬のの隙を突いたのだろう。

 いきなり、白哉が少女の唇を奪った。

「「「「 !!! 」」」」

 さすがに四人共、開いた口が塞がらない。

「〜っ〜〜!!」

 少女はどうにか逃れようともがくが、白哉は少女をしっかり抱き締めて放さなかった。

 口内を深く貪られて、くたっと、少女の体から力が抜けた。

 それを確認して、白哉はやっとを解放した。

「…な、何をいきなり……… ///// 」

 恨めしそうに、が白哉を睨み上げる。

「こうでもせねば、お前は黙らぬのだろう。」

 白哉は少女の細い腰に手を回して、その体を引き寄せた。

「白哉… 何故、あの時は………」

 はそれでも、その小さな両手で白哉を拒んでいた。

 その様子を見て、日番谷が眉を寄せた。

「オイ、朽木。 放してやれよ。」

 その声に、白哉が振り返る。

「お前等の事情は知らねえけど、が嫌がってるだろ。」

 白哉が眉を寄せた。

「兄等には関係ない問題だ。 放っておいてもらおう。」

「そらあかん。」

 突然の第三者の声。

「ふわぁぁ!」

 雛森が悲鳴を上げた。

「ギン…!」

 松本が目を丸くした。

「こんな可愛らしいちゃん独り占めて、ずるいんやない?」

 と、市丸は白哉の腕に抱かれたの、腕を取る。

「さ、ちゃん。 僕んトコおいで。」

 少女の腕を引いた。

「放してもらおうか。」

 白哉の霊圧が少し上がった。

「いやや。 放すんはそっちや。」

 市丸が倣って、少し霊圧を上げる。

 二人の間に挟まれて、は疲れたように肩を落とした。

「放せ二人とも!!」

 は叫んで、二人の腕を振り払った。

 そのまま駆け出して…

「へ? …っうわ!!」

 日番谷に飛び付いた。

 突然飛び付いて来たを支えられず、日番谷はを抱きとめてひっくり返る。

「いてて…」

 体を起こして、数回頭を振る。

 は、突然日番谷を強く抱き締めた。

「強引な奴は嫌いだ! 何を考えているのかわからない奴も嫌いだ! 私は日番谷と一緒にいる!! 帰れ、白哉!!」

「オイ、…!」

 日番谷は体を離そうとするが、自分を抱き締めるの手が、強く隊衣を握っていたのを見て言葉を飲み込んだ。

 はきつく、白哉を睨み上げる。

 白哉は溜息を吐いた。

「………騒がせたな。」

 踵を返して歩き出した。

 その背を見送って、市丸がを見据える。

「さ、ちゃん。 僕と…」

「市丸隊長ー!」

 市丸が何か言いかけた時、三番隊副隊長の吉良イヅルが顔を出した。

「見つけました! もう逃がしませんよ!!」

 吉良は市丸の首根っこを掴んで、ズルズルとその体を引いた。

「どうしていつも逃げるんですか! だから仕事が終わらないんですよ!!」

「イヅル〜、堪忍や〜…」

 吉良に引き摺られて、市丸は自分の隊舎に戻った。

 嵐が去ったような静けさに見舞われる。

「…オイ、。 いつまで引っ付いて………」

 の体を離そうとした日番谷が、眉を寄せた。

 言葉を飲み込む。

?」

 少女の体は、小刻みに震えていた。


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