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 夜一と別れて間もなく。

「………」

 虚の気配を感じて、浦原は足を止めた。

 雑魚だとわかったが、人里に出て暴れられては面倒である。

 気配のする方へ、向かった。







『恐れず向かってきたのは褒めてやろう。 だが…』

 虚の声に、眉を寄せた。

(誰かいるんデスか…?)

『ここまでだ!!』

 虚の長い舌が、少女に向かって伸びた。

「放せ、化け物!!」

 圧倒的に不利なその状況で、少女は怒鳴り散らした。

(随分、威勢の良いお嬢さんですね…)

 じぃっと、少女を見据える。

 漆黒の髪と瞳をした、ふむ… 中々の美少女である。

(おや…?)

 浦原が眉を寄せた。

 少女の身に着けている着物は、中々質の良いもの。

 全くと言ってもいい程、その霊圧は感じられないのに、瀞霊廷内に住んでいる少女。

(なるほど、彼女が…)

 夜一の言っていた、少女で間違いなさそうだ。

 浦原は斬魄刀に手をかけた。

ドン

 少女を捕らえていた、虚の舌を両断する。

「え…?」

 何が起きたのかわかっていないのだろう。

「き、きゃぁあっ!」

 悲鳴を上げて真っ逆さまに落ちる少女を、その腕に受け止めた。

(軽いですね…)

 自分の半分も、体重がないのではないか。

 そんな事を考えた。

 衝撃がない事を不審に思ったのだろう、少女が恐る恐る目を開ける。

「大丈夫でスか?」

 少女が何か反応を示すより先に、虚が飛び掛って来た。

『貴様ーっ、よくも邪魔を…!!』

 その頭に、斬魄刀を突き立てる。

 虚はその場に崩れ、塵のように跡形もなく消えた。

 じぃ…

 視線を感じて、そちらの方へ視線を投げる。

 大きな黒曜石の瞳で、少女が自分を見上げていた。

「どーも。 はじめまして、さん♪」

 何故、自分の名を知っているのだろう。

 少女の瞳が不安に揺れる。

「虚が怖くないんでスか? まったく、勇敢な人だ。」

 思いきり睨まれて、浦原が首を竦めた。

「アタシは、浦原喜助と言いまス。 どうぞよろし…」

ドゴッ

 一瞬、何をされたのかわからなかった。

 少女が、浦原の顔面に、右ストレートを喰らわせていた。

「無礼者! いつまで抱えておるつもりだ!!」

 突然の衝撃に、浦原はそのまま後ろへ倒れた。

「やれやれ…」

 ゆっくり体を起こすと、訝しそうに眉を寄せているの瞳とぶつかる。

「聞きに勝るお転婆姫っスねぇ…」

 鼻を擦りながら、浦原が少女を見上げた。

「ん、元気が一番っスよ。 アタシは好きですねえ、元気な人。」

 真央霊術院入学直後から、メキメキと実力を付けて行った浦原喜助。

 妬みと奇怪な目で見られ、学友と呼べる者はいない。

 浦原自身も、レベルの低い学友達を見下していて、その状況を変えようとはしなかった。

 言葉を交わす事も稀にない。

 自分以外の事に、興味はなかった。

 たった二年余りで学院を卒業し、すぐさま護廷十三隊に配属された。

 誰かに怒鳴りつけられるなんて…

 ましてや、右ストレートを喰らわされるなんて初めてだった。

 痛かったが、新鮮だった。

 夜一がこの少女に入れ込んでいる理由が、なんとなくわかった気がした。



 少女に対しての最初の印象は。

 とにかく元気で、自分に正直な人。



 を見上げて、浦原は笑った。

 どうやら少女に対して、興味が持てそうだ。


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