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「………」

 夜一が眉を寄せた。

ボタ…

 一滴の血が滴る。

「…無茶だ、喜助… もうやめろ。」

 夜一の視線の先、浦原喜助はぼろぼろだった。

「………」

 浦原が小さく唇を噛む。

 浦原が作った、転神体と言う道具。

 それに斬魄刀を突き刺すことで、強引に具象化の状態に持って行ける道具である。

 だが、本来はこうして卍解の修行に使う物ではない。

 卍解とは、死神としてその頂点を極めた者にだけ許される、斬魄刀戦術の最終奥義。

 転神体を使って斬魄刀を具象化させたからと言って、一朝一夕で身につくようなものではない。

「…何を、言ってるんですか… 夜一さん…」

 浦原は口元だけで細く笑った。

「やめませんよ、アタシは…」

 その脳裏に過ぎるのは。

『喜助!』

 眩しいばかりの少女の笑顔。

「…"護る"って、決めたんですよ…」

 に出会ってから、防人一族に付いて独学で調べ上げた。

『…お前に… 色々と気遣いをさせてしまったのだろう… 私は…』

 わずかに揺れた黒曜石の瞳。

 それに捉われた。

 霊力を発生させる道具を作るため、そして、情報を得る為に技術開発局も創立させた。

『………ありがとう………』

 その声が、その微笑が、脳裏に焼きついて離れない。

『…転んだんだ。』

 時にはまるで子供のように膨れるから、放っておけなかった。

 きっと、一人で強がっているのだろう。

 古来より尸魂界を護る封印主一族。

 少女に、その名は重い。

『…私は… 泣かぬ…!』

 少女が安心して泣けるように、もっと、強くならねばと思った。

さんのためなら… こんな痛み……… なんてことはないですよ…」

 はもっと、辛い思いをして来ただろうから。

 これしきの痛みで弱音など吐いていられない。

 ゆっくり立ち上がって、構える。

「…来い、紅姫。 もう一度だ…」

 誰よりも強くなって、そしてを護ろう。

 が笑ってくれるなら、どんな事でもするからと。

 心に決めたのだ。

 夜一をも巻き込んで、卍解の修行を始めて三日目。

 転神体を使うのならば、これ以上は危険だ。

 浦原が目を細めた。

 その斬魄刀の実体が動いた。











『夜一が、人には皆護りたいものがあると言っていた。』

 浦原を見上げて、は首を傾げた。

『お前の護りたいものとは何だ、喜助?』









 の声が聞こえたような気がして、浦原は細く笑った。

 刀を振り下ろす。

ザン ―――













アナタですよ、さん… ―――


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