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ザッ

 足音だけが響いている。

 場所は、四大貴族が一・朽木の敷地内。

 昨日、見事卍解を習得した。

 浦原の心は軽い。

 三日ぶりにに会おうと、その気配を辿って歩いていたら朽木の敷地に立ち入ってしまったのだ。

(朽木家のお坊ちゃんに会いに行ってるんですかねェ…)

 少し妬けるが、が幸せならばそれで構わない。

「!」

 予感は的中した。

 捜していた少女が、遠目に見える。

さー…」

「こんな所で私に構っている場合か。 早く行け。」

 少し慌てたようなの声に、浦原が首を傾げる。

 共に、朽木白哉がいる。

「わからぬか、?」

 白哉は少女の細い腕を掴んで、離れようとするのを引き止めた。

「え…?」

 が眉を寄せる。

(何の話ですか?)

 浦原は目を細めた。

 白哉はの手を取り、一つ、優しく口付けた。

「私は… お前を迎えに来たのだ。」

ザァ…

 風が吹いた。

 浦原は目を丸くした。

 は唇を噛んで、言葉を紡いでいる。

「…茶も点(た)てられぬ小娘だぞ?」

 何て表情をしているのだろう。

「………花も活けられぬ小娘だぞ?」

 今にも泣き出しそうな、嬉しいながらも戸惑っているような表情。

「………一族の恥と罵られ陰口を叩かれている… 霊力の欠片も持たぬ、ただの小娘だぞ…」

 白哉の前では、そのような表情を見せるのだろうか。

「白哉に… 迷惑はかけたくない…」

 黒曜石の瞳が揺らいだ。

「私は… 白哉の重荷にはなりたくない…」

 浦原がいる事に全く気付いていないのだろう。

 は小さく首を振っている。

 白哉は小さく息を吐いた。

「私の妻になれ、。 二度は言わぬぞ。」

「………」

 浦原の呼吸が止まった。

 盗み見るつもりなんてないのに、まるで石にでもなったかのように足が動かない。

「…それは、命令か?」

 のその声に、やっと我に返える事が出来た。

 白哉は眉を寄せている。

「…そうだ。」

 がわずかに唇を噛んだ。

「………ん、わかった。」

ザッ

 それ以上見ていることが出来なくて、浦原は踵を返した。

ザ ザ ザ…

 一人、今来た道を戻りながら…

「あの時の… 仕返しですか…」

 自嘲するように小さく笑う。



 白哉に会いに行くからと、嬉しそうに笑った

 が幸せならそれで構わない。

 そう思っていたのに。

 は泣きそうな顔で戻って来た。

 白哉が、真央霊術院の女生徒と一緒にいたのを目撃してしまったようだ。

 初めての嫉妬と言う感情に、は戸惑っていた。

 だから。

『泣きたい時は、アタシを呼んで下さい。』

 驚いて目を丸くする少女に、浦原は優しく微笑んだ。

『アタシなら、アナタを抱き締める事も、アナタの涙を止める事も出来ますよ。』

 そう言って、抱き締めてやった。

 を追って来たのだろう白哉に… それを目撃されたのだ。

 は気付いていない。



「…醜いですねぇ、まったく…」

 が幸せなら、それで構わないと思っていたのに…

 いざ、プロポーズされている場面を見てしまうと、醜い嫉妬がその胸中に渦を巻いている。

「…本当に、本気だったんですね… アタシらしくない………」

 嘲るように、苦虫を噛み潰すかのように、笑う。

「どうかお幸せに… さん………」

 気持ちの整理が付くまで、しばらく会わない方がいいだろう。

 そう思った。


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