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「…んっ………」

 が少し苦しそうに眉を寄せる。

「オイ、………」

「ダメだ、姫椿(ひめつばき)!!!」

ガツン。

「だぁっ!」

 苦しそうだったのでに声をかけた日番谷。

 突然が体を起こしたので、思いっきり頭部同士をぶつけてしまった。

 勢い余って、日番谷がひっくり返る。

「イテテ… あれ、日番谷…?」

 は額を押さえたまま首を傾げた。

「この石頭が…」

 顎をぶつけたのだろう、日番谷が眉を寄せていた。

「あれ…?」

 は目を丸くして日番谷を見た。

「…ココはどこだ?」

「俺の部屋だ。 お前あのあとそのまま寝ちまったんだよ。 覚えてないのか?」

 あのあと。

 そう聞いて、小さく納得する。

「そうか、迷惑かけたな。 お前が私を運んだのか?」

 の声に、日番谷が頷く。

「どう運んだのだ?」

 の声に、少し考えて。

「俺に抱き付いたままだったから… こう………」

 日番谷が両手を広げて、再現する。

 それは、俗に言う、お姫様抱っこ。

「……………。 ///// 」

 が少し、頬を赤らめた。

「なっ…! 違う、俺は別に…! あー、もう! 赤くなるんじゃねえ!! ///// 」

 につられて、日番谷が真っ赤になる。

「お前だって赤くなっているではないか!」

「お前につられたんだよ!」

 がじぃっと日番谷を見据えた。

「…日番谷より私の方が大きいのに。 やはり小さくとも男子なのだな。」

 感心したように呟く

「小さいは余計だ。 大体、お前は軽い。」

 日番谷が小さく息を吐く。

 がぽりぽりと頭を掻いた。

「寝床は世話になってばかりだな…」

「いや、別に構わねえけど…」

 日番谷が一度、言葉を切った。

「何だ? 気になるだろう。」

 が首を傾げる。

「…姫椿って何だ?」

 日番谷の声に、が眉を寄せた。

「…何故、お前が姫椿を知っている?」

「あ? お前が寝言で言ってたんだろ。」

 日番谷は少し疲れたように溜息を吐いた。

「…そうか。 姫椿は、私の斬魄刀の名だ。」

 の言葉に、日番谷は少し躊躇いがちに聞いた。

「…それの事か?」

 と、の腰の斬魄刀を指差す。

 は何も言わなかった。

「お前、魘されてたぜ? その姫椿とか言う斬魄刀… 防人が守ってるのはそいつの事なんじゃないのか?」

チリッ

 にだけわかる、少し上がった霊圧。

 はそっと、腰の斬魄刀の柄を握った。

シズマレ

 一度目を閉じ、大きく深呼吸をする。

「…悪いが、姫椿の事は、誰にも話す気はない。 他の事ならば、答えよう。」

 の声に、日番谷が溜息で答えた。

「他に聞きたい事なんかねえよ。」

 日番谷が、ぽりぽりと頭をかいた。

 は少し躊躇ったが、意を決して口を利いた。

「…聞かないのか? 私と白哉の事。」

 日番谷が、少し眉を寄せた。

「話して楽になるって言うなら聞いてやる。」

 は少し困ったように首を竦めた。

「…優しいんだな、日番谷は。」

「は? いきなり何言って………」

 の小さな手が、ぎゅっと、布団を握った。

 わずかに振るえたそれを見て、日番谷が小さく息を吐く。

「…もう一眠りしろよ。 お前、疲れてるんだろ。」

 は躊躇いがちに、少しだけ、布団から手を出した。

 日番谷が首を傾げる。

「手…握ってくれないか…?」

「はぁ? 何言って…」

 黒曜石の瞳に見据えられて、日番谷は言葉を飲み込んだ。

「…寝るまでだぞ。」

 つくづく女に甘い。

 日番谷は溜息を吐いた。

「………ありがとう。」

 はにこりと微笑んだ。

 その声が淋しそうに聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。


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