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 あの日を境に、尸魂界には大小様々な動きがあった。

 まず、浦原喜助は前例にない早さで、十二番隊の隊長に抜擢され。

 防人一族唯一の生存者、には封印主一族の名の下に修行が課せられ。

 朽木白哉は主席で真央霊術院を卒業、護廷十三隊に配属された。

 浦原は護廷十三隊の隊長としてよりも、技術開発局・局長として多忙な日々を送っていた。

 そして、相変わらず…

 道具の開発の合間を縫っては、のための道具開発に精を出していた。

 まず出来上がったのが、霊力を込めれば蝶にその姿を変える、電信機である。

 霊力を込めなければ、ただの白い紙でしかない。

「そうっスねぇ… アタシと夜一さんと………」

 ふと、一人の男が脳裏を過ぎった。

「…白哉さんにも、少しおすそ分けしましょうか…」

 そうした方が、は喜ぶだろう。

 白哉も、が淋しがっている事はわかっているだろう。

「アタシってば健気ですねぇ〜…」

 それでも、が喜ぶなら。

 そう思えるのは、心より少女の幸せを願っているからだろう。











 中央四十六室より、霊力を封じる道具の開発以来が届いていた。

 おそらく、の力を恐れての依頼であろう。

「…付け心地はどうですか?」

 一月に一度ほど、は技術開発局の方へ遊びに来ていた。

 その度に、開発した道具を試している。

 は少し困ったように眉を寄せた。

「あまり… 変わった気はせぬ。」

「やってみるのが早いっすね。 じゃ、初級鬼道を打ってみて下さい。」

 場所は双極の丘。

 今、付けているのは封霊環(霊力を押さえる首輪)である。

 は小さく息を吐いた。

「破道の四・白雷!」

ドッ

 一筋の光が、空へ伸びた。

 が目を丸くした。

「喜助! すごいな! いつもの半分も威力がなかったぞ!」

 黒曜石の瞳をキラキラさせてそう言うが…

 浦原は目を細めた。

(今ので、半分もなかった… ですか…)

 普通の死神に比べれば、軽く十倍以上の威力があった。

(詠唱破棄の初級鬼道で、これほどの威力… さんの霊力は桁外れなんですね…)

 中央四十六室が恐れる理由がわかった。

 がその気になれば、尸魂界を壊滅させる事も可能だろう。

「? どうした、喜助?」

 難しい顔をしたまま動かない浦原の裾を引く。

「…いいえ。 何でもないですよ。」

 浦原がを見据える。

さん、卍解は習得できたんですか?」

 と、首を傾げる。

「もちろんだ。 だが… あまり使いたくはない… まだ不安定でもあるし…」

 わずかに、黒曜石の瞳が揺れた。

「…『姫椿』も?」

 浦原の声に、が小さく首を振る。

「『姫椿』は、まだ… "封印"はともかく、"解放"された力を完全に扱うことが出来ぬ。」

 の瞳が揺れた。

「喜助、そのことなんだが…」

 はじっと浦原を見上げた。

「しばらく… 修行に専念するようにと、姫椿に言われたのだ。 あまり訪ねる事も出来なくなるだろう。」

「そうですか… 大変そうですねぇ… でも。」

 ぽんと、の頭を撫でた。

「コレがあれば だーいじょうぶ♡ アタシが造った電信機です♡」

 と、白い紙の束をに押し付ける。

「? 電信機?? これが?」

 は目を丸くした。

「はい♡ 霊力を込めたら、電信機になるんです。 淋しくなったら、アタシとお電話しましょう♡」

 にこりと笑った浦原につられて、も小さく笑った。

「ありがとう、喜助。 もらっておく。」

 風に、艶やかな髪が揺れた。

「では、喜助! ちゃんと修行を終えたら、また会いに来る! さぼらずに働けよ、十二番隊隊長!」

「わかってますよん♪」

 手を振って走り去った少女の小さな背中を見送った。

 相変わらず、は元気で…

 それを見ているだけで、救われた気持ちになる。

 と出会ってから、浦原は防人一族に付いて独学で学んだ。

 護神刀の解封は、死神の卍解とは少し違う。

さんになら出来ますよ。)

 風に髪を揺らしながら、浦原は細く笑った。

「…浦原…」

 名前を呼ばれて振り返った。

「…何でしょう、浮竹さん?」

 十三番隊・隊長の浮竹十四郎だった。

「お一人で遠出ですか? お体の具合は大丈夫なんですか?」

 自分を見据えて首を竦める浦原を見て、浮竹は小さく息を吐いた。

「…お前に、言わないといけない事があるんだ。」

「何でしょう?」

 浦原は表情も変えずに、そう言った。

 浮竹はわずかに言葉を濁した。

「…彼女に… にあまり近付くな。」

 その声に、浦原が目を細めた。

「中央四十六室は… 彼女を危険分子と見ている。 これからは、常に監視される立場にあるだろう…」

 浮竹がじぃっと浦原を見据えた。

「…彼女の傍にいれば、お前も足許を掬われる事になる…」

 浦原は首を竦めた。

「イヤですねぇ… アタシに疚しいことなんてないっスよ。」

 いつものようにそう笑うから、その腹の内が読めない。

「じゃ、アタシはコレで…」

「浦原…!」

 歩き出そうとしていた浦原を呼び止める。

「………何を、企んでいる?」

 浮竹の問い。

「………」

 浦原は細く笑っただけで、何も言わなかった。

 その背を見送って、浮竹は小さく息を吐いた。

 切れ者で変わり者と評判の浦原喜助。

 前例にない早さで隊長の座にまで昇り詰め、技術開発局を自ら発足・その局長も務めている。

 様々な道具を作り出す一方で、局の者にも内密に何かを創ろうとしているらしい。

 いろいろな死神を見て来たが…

 浦原のような男は初めてだった。

 その腹の内が、何一つ読めない。

 頭が良過ぎるのも、どうやら都合が悪いらしい。

 浦原の昇進を快く思っていない者達が、何やら怪しい動きを企てている。

「…頼むから… 何かしでかさないでくれよ…」

 浦原はどう思っているか知らないが、浮竹にとっては浦原は、大切な仲間だった。


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