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「………」

 浦原が眉を寄せた。

『これからは、常に監視される立場にあるだろう。』

 浮竹の言葉が引っかかる。

『中央四十六室は… 彼女を危険分子と見ている。』

「…知ってますよ… だから、霊力を押さえる道具を創ろうとしてるんじゃないですか…」

 浦原は目を細めた。

 何か… 胸騒ぎがする。

 良くないことが起こると言うのだろうか?

「ダメですねぇ… 傍にいないとすぐ心配になっちゃって…」

 自嘲気味に呟いて、引き出しを開けた。

 一枚の白い紙を取り出し、それに霊力を込める。

ヒラ…

 それは蝶に姿を変え、優雅に宙を舞った。

『喜助か!』

 少女の声が届いた。

 その声に、どこか安心している自分がいる。

「どーも。 調子はどうですか?」

 会えなくなって、どれほど時が経っただろうか。

 時折、こうして言葉は交わしているものの…

 孤独を嫌う少女だが、修行に追われ多忙なのだろう。

 最近は、一方的に浦原から信号を送ることが多い。

『変わらぬ。 元気にやっている。』

 その声に、浦原はわずかに眉を寄せた。

「…そうっスか〜? なーんか、空元気みたいな声っスね。 どうかしました?」

 言葉に詰まったのだろう。

 一瞬、間があった。

『そうか? 少し… 疲れているのかもな。』

 浦原は目を細めた。

 何か胸に憂いがあるのだろう。

 だが、はそれを隠そうとしている。

 無理に聞く必要はない。

「無理はダメっスよ、さん。 あ、そうそう。 今度………」

 新しい道具が完成したのだ。

 是非、時間がある時にでも顔を出して欲しい。

 その旨を伝えようとしたのに。

バチィッ

「!」

 浦原は目を丸くした。

 目の前で、白い蝶が裂けた。

「………」

 その瞳が揺れる。

「…アタシじゃないですね… さんに何かあったんですか…」

 窓の外を見上げる。

 雨が降り出しそうな空だった。













 悪い予感ほど、よく当たる。

「局長ーっ! 中央四十六室から局長宛てに依頼が届いてますよー!」

 中央四十六室………

 浦原の瞳が揺れた。

「どーも、ご苦労さんです…」

 依頼の手紙を受け取って、それを開く。

 浦原の呼吸が止まった。

 そこには。

『防人一族・を封印する為、霊力の全てを遮断する装置を造れ』

 と記されていた。

グシャッ

 それを握り潰して、浦原は局長室から飛び出した。

 向かった先は…

 中央四十六室・地下議事堂。

バン

 その重厚な扉を蹴破った。


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