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「アイタタタタ…」

 浦原が眉を寄せた。

「も、もう少し優しくしてくれませんか?」

 その声に、四楓院夜一が思いきり眉を寄せる。

「自業自得じゃ。」

 擦り傷だらけの浦原を手当てしながら、夜一は続けた。

「中央四十六室へ殴りこみに行く奴がどこにおる! この程度の傷で済んで良かったと思え!」

 浦原は目を細めた。

「…すみません、手間をかけさせて…」

 中央四十六室へ乗り込んで、無事でいられる者はいない。

 浦原は罰を受け、三日ほど牢へ幽閉されていた。

 夜一が手回しをしてくれなければ、まだ当分牢から出られなかっただろう。

「…おぬしのことじゃ。 どうせ絡みなのじゃろう?」

 浦原は何も言わなかった。

 わずかに目を伏せているだけで、夜一を見ようともしない。

 夜一の瞳が揺れた。

「おぬしの造った電信機で、幾度かと話をした。 …おぬしの事、気にしておったぞ。」

 その声に、やっと顔を上げた。

 じっと夜一を見据える。

「『私の為に、無茶をしているのだろう』と、言っておった…」

 刑軍軍団長を務める夜一の耳には、尸魂界の様々な裏情報が届く。

「喜助… おぬし… 局の者にも内密に、何を創ろうとしておるのじゃ?」

 夜一の声に、浦原は細く笑った。

ヒラ…

 何かの気配に、揃って視線を投げる。

 黒いアゲハ蝶だった。

「地獄蝶…? 何だ?」

 夜一が眉を寄せた。

『 防人一族・の処遇が決まりました。 』

 地獄蝶の声に、二人は息を飲んだ。

『 尸魂界は、を封印します。 』

 耳を疑った。

『 隊長各位へ、斬魄刀の常時携帯及び全面解放の許可が下りました。 がその命に背いた際には、始末せよとの事です。 』

 浦原の呼吸が止まった。

 始末…?

 地獄蝶が何と言ったのか、理解できなかった。

 封印…?

「…封印…? どう言う意味だ…? を始末しろ… だと…?」

 夜一の声は震えていた。

 浦原の瞳が揺れた。

「 … ―――」

チリッ

 空気が震えた。

「…醜いですねぇ、まったく……… いいかげん、愛想が尽きますよ…」

 その声は恐ろしいほど冷たい。

「喜助…!」

「邪魔しないで下さい、夜一さん…」

 浦原は踵を返した。

 時間がない。

 を護ると決めたのだ。

 今、浦原が取り掛かっているのは。

 義骸の創作。

 一般のそれとは違い、霊力を拡散させ続ける義骸。

 がその義骸を使えば、その霊力は拡散され、誰にも見つからずに逃げる事が出来る。





『…たとえば私が、何の力も持たない普通の少女だったら…』

 はわずかに目を伏せた。

『…自由を望むことが許されただろうか?』

 力なくそう呟く少女は、小さく震えていた。





 今取り掛かっている義骸が完成すれば、はただの人間になれるのだ。

(封印なんてさせませんよ…)

 浦原は唇を噛んだ。

(アナタ一人に、辛い思いはさせません…)

 その脳裏に、笑顔のが過ぎった。





 が白哉に拒まれ、封印される決意をしたのは、この二日後だった。


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