12


 前に立つ男を見て、白哉は足を止めた。

「浦原………」

 浦原だった。

 白哉が眉を寄せた。

 その様子に、浦原が首を竦める。

「そう毛嫌いしないで下さいよ。」

 白哉は、この浦原喜助と言う男が苦手だった。

 と言っても、から話に聞いていた程度で、面識はさほどない。

 護廷十三隊・十二番隊の隊長及び、技術開発局の局長 浦原喜助。

 これほど賛否両論はっきり分かれる男もめずらしいだろう。

 白哉自身も、どこか敬遠していた。

 まぁ、無理はない。

 初めて白哉が浦原と会ったのは…

 の気配を辿り、その姿を探していた時。

『………』

 浦原は確かに、を抱いていた。

「…ちょっとお話があるんです。 付いて来て頂けますか?」

「………」

 浦原の声に、何も言わずに従った。















 浦原に連れられてやって来たのは、鍛錬場だった。

 思っていた通りだ。

 話とは、他ならぬの事だった。

「…泣いてましたよ… さん… 貴方が何を言ったとか、そう言う話はとりあえず保留にしておきましょう… ですが…」

 浦原の霊圧が上がった。

「アタシが気に入らないのは…」

 チャキっと、紅姫を鞘から抜く。

「…何故、彼女を拒んだのです?」

 つかみ所がないと言えど、流石は一隊長。

 その霊圧は大したものだった。

「…貴様に話す義理はない。」

 白哉が吐き捨てた。

 浦原はまっすぐに白哉を見据えていた。

「彼女が震えていたからですか?」

「………」

 白哉は何も言わなかった。

 浦原が続ける。

「初めての事に不安なのは当然でしょう。 何故、安心させてやる事が出来なかったのです?」

 その声は冷たかった。

さんを、愛しているんじゃぁないんですか?」

ガギィッ

 斬りかかった。

 白哉が斬魄刀を抜いて応戦する。

「おや、中々いい反応ですね。 さすがは、名門朽木家のお坊ちゃんだ。」

 浦原の目は冷たい。

 白哉が眉を寄せた。

 競り負けそうだ。

ガッ ン…

 弾いて間合いを取る。

「…乙女が恥を忍んで申し出たと言うのに… それでも男ですか…!」

 再び、浦原が斬りかかる。

ガッ

 刀で受けた。

「彼女は…」

 浦原が、わずかに目を細めた。

「…彼女は、アタシが抱きました。」

「………」

 一瞬、白哉の呼吸が止まった。

ザン

 生じた隙を付かれたのだろう。

 派手に腕を斬られた。

ボタ ボタボタ…

 血が滴る。

 浦原は眉一つ動かさずに、飛び散る紅に目もくれずに、白哉を見据えていた。

「教えてあげましょうか、白哉さん… 」

 瞬きをした一瞬の間に、浦原の姿が視界から消えた。

「!」

ガン

 その気配を辿り、振り下ろされた刀を受ける。

「彼女がどんな声で鳴き… どんな言葉でアタシを求め… そして、どんなに乱れたか…」

「浦原、貴様…!」

 白哉の霊圧が跳ね上がった。

 それでも、浦原は動じない。

「………動揺してるんですか、白哉さん… らしくないじゃぁ ないですか…」

ガッ

 浦原が白哉の斬魄刀を弾いた。

「 … ――― !!」

 白哉は息を飲んだ。

 真っ直ぐに、自分に向かって斬魄刀が振り下ろされ…

「ふぅ!」

 突然の第三者の声。

 手首を捕まれて、浦原が目を丸くした。

「…浮竹さん…」

 十三番隊隊長の、浮竹十四郎だった。

「穏やかじゃないな、浦原。 一隊長が、新人に稽古を付けているにしては、少し度が過ぎるんじゃないか?」

 その手を振り払って、浦原が紅姫を鞘に収める。

「今の一撃は、当てるつもりはありませんでしたよ…」

ボタボタ…

 白哉の腕を伝って、血が流れる。

「月の無い晩に…」

 言いながら、浦原が踵を返した。

さんは封印されます。 それまでは… アタシが面倒を見ますからご心配なく。」

「待て、浦原… は…」

 何か言いかけた白哉を、浦原の声が遮る。

「…婚約者に拒まれて、何故貴方の許へ帰れるんです?」

 それを言われては、何も言い返せない。

 鍛錬場を去る浦原の背を見送って、浮竹が小さく息を吐いた。

「大丈夫か、朽木? すまない、少し変わった奴で… 悪い奴じゃないんだが…」

 困ったように頭を掻いて、浮竹が続ける。

「怪我をしたのか。 すぐに四番隊に…」

 白哉が首を振る。

「…大事ない。」

 浮竹が眉を寄せた。

「大丈夫なわけないだろう! それだけ血が出てるんだ…! すぐに手当てを…!」

「…私に構うな。」

 白哉は唇を噛んでいた。

ボタッ

 滴り落ちる血の温かさだけが、生々しく感じられた。


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