月の無い晩。 「…!」 尸魂界の最下層に向かう途中で、は足を止めた。 まるでその道を阻むかのように、誰か立っている。 よく知る、人物だ。 「夜一………」 をまっすぐに見据えて、夜一はわずかに目を伏せた。 「………」 まるで罪人のように腕を拘束され、四人の人物に囲まれるように歩む少女の姿を見て、夜一が眉を寄せた。 この先に続くのは、封霊主の間。 今宵、防人一族・は封印される。 もしもの事が起きることを想定し、その場には護廷十三隊の隊長と軍団長直属の刑軍が居合わせる事になっていた。 それ以外の者は、その場に近寄ることすら許されていない。 夜一が唇を噛んだ。 「共に…! 逃げようと言ってくれ…! 儂は……… お前が封印されることなど望んではおらぬ…!」 夜一の瞳が揺れた。 「…! 頼む…! お前は儂が護るから… 共に逃げよう…!」 グッと、強く握ったその拳は震えていた。 はにこりと微笑んだ。 透き通るような微笑だった。 「夜一…」 自分を囲む四人を下がらせて、はゆっくり夜一の前へ歩み出た。 縛られた小さな手で、そっと夜一の頬を撫でる。 その胸に、頭を寄せた。 「ありがとう…」 その声に、夜一の呼吸が止まった。 「バカな事を言わずに… 生きてくれ…」 は目を伏せた。 「さようなら。」 すっと、身を離す。 力なく、夜一の体がその場に崩れた。 振り返る事も、その場から動くことも出来ない。 (… ――― !!) 夜一が唇を噛んだ。 パキ… パキパキ… キィイ…ン… 水晶が、少女を包んだ。 浦原はじぃっとそれを見上げていた。 少女は封印された。 そうなる事を、自ら望んだ。 前の晩に、自分の見た夢の話をしてくれた。 『…こうしなければ、誰も護れないんだ…』 その小さな体に… 強い決意が見えた。 に、迷いはなかった。 『アタシは… そんなの認めませんよ…』 『喜助…?』 唇を噛み締めた浦原を見上げて、少女が首を傾げた。 『何故、アナタ一人が、自分の気持ちを偽って… 封印されなければならないんです?』 少女は微笑んだ。 『…お前が大切だからだ、喜助…』 透き通るような、微笑。 『…喜助も、夜一も… 白哉も… 皆大切なのだ。 失いたくはない…』 そのまま少女が消えてしまうのではないか。 妙な不安に駆られて、少女の小さな手を握った。 「………」 強く拳を握って、唇を噛み締める。 (さん…!) その声も、もう届かない。 バン 突然の物音。 重厚な扉が蹴破られた。 「!!」 その声に、浦原は呼吸を忘れて振り返った。 朽木白哉だった。 「…!」 白哉が唇を噛み締めた。 周囲の目に構う様子もなく、水晶の中の少女へ向けて駆け出す。 「 … ――― 」 浦原が動いた。 ダァン 白哉を組み敷く。 ギリッ その腕をキツク締め上げて、白哉を見下ろした。 「…浦原…!」 白哉は唇を噛み締めて、恨めしそうに浦原を睨み上げた。 「…今更何ですか、白哉さん…」 浦原の声は冷たく、白哉の腕を締め上げる力も優しくない。 「…さんは封印されました。 彼女の望むままに…」 浦原はわずかに戸惑っていた。 これほどまでに冷たい声… 自分の声じゃないみたいだ。 「…彼女を受け入れることも出来ない… けれど、完全に突き放す事も出来ない… そんな人に…」 ギリギリ… 白哉を見据えるその目は冷たかった。 「貴方に、さんに駆け寄る権利なんてないんですよ。」 水晶の中… 封印されたを見据えて、白哉は唇を噛んだ。 |