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「何だと…?」

 白哉が眉を寄せた。

 立ち入り禁止の封霊主の間に侵入した白哉。

 その処分は…

「だから、帰りなさい。 貴方は無罪っスよ。」

 煙管から、白い煙が立ち昇る。

 自分に一任させてくれと、浦原が申し出たのだ。

 浦原に、白哉を罰する気などない。

「貴方が罰を受けても、さんが哀しむだけですから。」

 白哉を見据えたまま、浦原が目を細めた。

「帰りなさい、お坊ちゃん… 軽々しい行動は、二度とお止めなさい。」

 ザッと、踵を返す。

さんは… アタシが助けます…」

 浦原の声に白哉は強く拳を握ったが、何も言い返すことは出来なかった。











 そのままの足取りで、尸魂界の最下層、封霊主の間へ向かう。

 水晶の中の封印された少女をじっと見上げた。



『もしものことがあれば… お前は、私を斬ってくれるか? 喜助…』

 黒曜石の瞳が揺れた。

 突然の声に、浦原は少し困ったように眉を寄せた。

『…それが、アナタの望みなら。 ただ…』

 ぽんと、の頭を撫でた。

『アナタを斬った後、アタシも死にます。』

 真剣とも冗談とも取れない声で、浦原はそう言った。

『な…? バカ者! 何て言う事を…!』

 思い切り眉を寄せたに、優しく微笑んだ。

『バカはどっちですか。 アナタのいない世界に、アタシが生きる意味なんてないですよ。』



 浦原はわずかに目を伏せた。

 水晶の中。

 まるで眠っているかのような、少女。



『もしものことがあれば… お前は、私を斬ってくれるか? 喜助…』



 その声が耳から離れない。

「アレは、こう言う意味だったんですか…」

 当然ながら、答える声などない。

「アタシは… やっぱり認めませんよ…」

 グッと、強く拳を握る。

「何故、アナタ一人が、自分の気持ちを偽って… 封印されなければならないんです?」

 同じ問いをぶつけた時、少女は微笑んだ。



『…お前が大切だからだ、喜助…』



 生きているのか、死んでいるのか。

 それすらわからない。

 ただ、水晶の中に封印されていても、その美しさだけは変わらなかった。

「…アタシの気持ちはどうなるんですか? さん…」

 そっと、手を伸ばす。

 ひんやりと冷たい水晶…

 それに阻まれて、触れる事も叶わない。

「…アナタが… 大切なんですよ… アナタだけが、アタシの全てなんです…」

 その声も、届かない。

 力なく、浦原の体がその場に崩れた。

「愛してるんですよ、さん………!」

 キツク、唇を噛む。

「アタシは… 諦めませんよ…」

 静かに、その声だけが響いた。











 以来。

 浦原喜助は、技術開発局へ篭る事になる。

 崩玉が完成したのは、が封印されて四十余年後。

バン

 技術開発局・局長室のドアが乱暴に開かれた。

「技術開発局・局長、浦原喜助。 お前を連行する。」

 瀞霊廷に敵は多い。

 きっと浦原を快く思っていない輩が動いたのだろう。

「………」

 浦原はわずかに目を伏せた。





アタシは諦めませんよ、さん… ―――――











アタシが護ると決めたのは、アナタだけです

      アナタの幸せの為なら、この命など惜しくありません ―――――


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